「お前が! お前さえいなければ、あいつは、ヤクは下げられることはなかったんだよ!」

 三重先輩の体から、黒いモヤが炎のように立ち上る。三重先輩がまとう敵意のモヤが、あっくんに向かおうとする。幸い、少し距離があるからか、モヤはあっくんには届かない。だけど、徐々に大きくなっていくモヤが、あっくんに届いてしまうのは時間の問題だ。

『キャン! キャンキャン!』

 いつの間にか俺の元に帰っていたハチが、三重先輩に向かって吠える。時々、何か言いたげな顔で俺を見る。飛びかかってもいいかと、尋ねているんだ。

「待て。何もしないで」

 小声で指示を出す。あっくんには、何もしなくていいと言われた。三重先輩の体調のこともあるし、ハチに攻撃させるわけにはいかない。

「もう少し、様子を見るから……」

 あっくんにも何か考えがあるのかもしれない。ないのかもしれないけど、あっくんの意思を尊重したい。

「それって、インターハイ予選のことっすか?」

「そうだよ」

「でも、俺が入ったから、勝てたんじゃないんすか?」

「勝たなくていい。俺達は弱小チームだ。どうせどこかで負ける。勝てなくても、あいつとバレーが出来たらそれで良かった。なのに、お前のせいで……」

「俺は勝ちたいよ」

 三重先輩が、驚いた顔をして勢いよく振り返った。突然聞こえた声に俺も驚いたけど、あっくんは平然としている。

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