「どうしたんすか? 保健室に行くんすか?」
「トイレだよ。月山こそ、そんな所で何してたんだ?」
「密会です」
「密会?」
「冗談です。友達と喋ってただけです」
嘘じゃないけど、なんで自転車置き場でと突っ込まれるかと思ったら、三重先輩は「そうか」と返しただけでその話は終わった。
2人並んでトイレに向かう。その様子を見ていると、とてもあっくんに生霊を飛ばすほどの敵意を持っているように見えない。
同じ部活の先輩だ。表面上仲良くしながら、もう少し様子を見るのもいいかもしれない。俺の手に負えなくなったら、あっくんがなんて言おうと、神山のお母さんに助けてもらおう。そう俺が決心を固めている中、あっくんは全く別のことを考えていたらしい。
「三重先輩。俺のこと、嫌いっすか?」
その言葉は、まるで世間話でもするような何気ない調子だった。
三重先輩の足が止まる。あっくんが少し進んで振り返る。その顔は、なぜか笑っていた。
「なんでそう思うんだ?」
ここからじゃ三重先輩の顔は見えないけれど、笑顔のあっくんに対し、その声は少しも笑っていないように思えた。
「勘です。俺、勘がいいんで、時々先輩から敵意? みたいなもん感じるんす」
「気のせいだろ? 嫌ってなんかないよ」
「じゃあ、邪魔に思ってるんすか?」
「思ってない」
「なら……」
あっくんの声が大きくなる。
「もっと俺に、トスください!」
「十分やってんだろ」
「足りません! それこそ全部俺に上げてください! そしたら、俺が全部決めてみせます!」
「傲慢……」
三重先輩の口調が変わった。
「お前1人でどうにかなると思ってんのかよ。バレーは繋ぐスポーツだ」
「知ってますよ。だから、俺に繋いでください! さっき三重先輩が抜けて、三重先輩の凄さをすげー感じました! 三重先輩のトス、すげー打ちやすいです! だから、もっと俺にください!」
胸の前で拳を作り、前のめりで訴えるあっくんに、三重先輩は吐き捨てるように言う。
「お前に打たせるために磨いた技術じゃねーよ」
あっくんは、手を下ろして少し真面目な顔になって言った。
「奈良先輩っすか?」
奈良先輩って、確か小柄だけど結構活躍してた人?
「そうだよ。あいつが俺をバレーに誘ったんだ。小学生の頃、あいつ学年で一番背が高くて運動神経もよくて。そんで、俺にボール上げろって言ってきてさ。あいつのスパイク、凄かったんだぜ。自然とあいつが打ちやすいトスを上げる技術が身に付いた」
「でも、俺には関係ないっすよ」
「あっくん!」
思わず声が出てしまう。三重先輩のまとう空気が変わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます