試合が終わったと思ったら、20分の休憩後、もう1試合するという。その後、相手校は帰り、あっくん達は反省会があるらしい。午前授業の後のみっちりスケジュールに、やっぱり運動部は大変だなと改めて思う。
次の試合に向けての注意点を先生が簡単に説明すると、あっくんはトイレに行くと言った。出口に向かう時、チラリと俺を見た。俺もあっくんの後を追う。
「それで、何がわかった?」
人目を避けるために体育館裏の自転車置き場に来た途端、あっくんが口を開く。ストレートな聞き方は、時間がないのもあるけど、あっくんらしいとも言える。自分に向けられる悪意を真っ正面から受け止める覚悟と、気合いを感じた。だから俺も、包み隠さず端的に話すことにした。
「あっくんにシミを憑けていたのは、セッターの人だった」
あっくんは、目を大きくして俺を見た。信じられないと言った様子だ。
「間違いない。ベンチに座っていた時、体から黒いモヤが上がっているのが見えた。コートに戻った途端、それが全部あっくんに行って、手の形のシミに変化した」
「三重先輩がねぇ……」
あっくんは、まだ信じられないと言った感じだ。
「その前にも、何回もあっくんにシミは憑いた」
「そういや、序盤に右腕にちょっと違和感があったな……ともが散らしてくれたのか?」
「うん。俺って言うか、ハチが……」
神山のシェパードのことは、説明が長くなるから後にする。
「そうか……」
俺の話を聞くと、あっくんは短く答えて黙った。
問題は、これからどうするかだ。生霊を飛ばしてくる相手が分かったところで、俺にはこれ以上どうにも出来ない。せいぜい、神山のお母さんにお願いするくらいだ。
顔を上げたあっくんが、真っ直ぐ俺を見て言う。
「分かった。今までサンキューな」
今まで?
「もう大丈夫だから、何もしなくていい。シミを散らすのも、やめてくれ」
「ちょ、なんで!?」
「なんか、急に三重先輩の調子が悪くなって、心配だったんだ。急激に消耗したって感じで、不思議に思ってた。それって、三重先輩の生霊を散らしたせいじゃないのか?」
「あ……」
あっくんに指摘されるまでもなく分かってた。生霊は、飛ばした人の魂の一部だ。それをあんな頻繁に散らして、飛ばした人に何の影響もない訳がない。だけどそれは、三重先輩の自業自得じゃないのか?
黙った俺に、あっくんは明るい調子で言う。
「俺なら大丈夫だ。体力には自信があるしな! とりあえず、今日のところは放って置いてくれ」
話は終わったとばかりに、小走りで体育館の方に戻っていく。
「ちょっ、あっ……」
「あ! 三重先輩」
慌てて後を追う俺の耳に、例の先輩を呼ぶ声が届いた。思わず体育館の影に身を隠す。
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