次のサーブは、相手コートのライン際を狙って放たれた。ここからだとアウトに見えるけど、ギリギリで入っていた。ノリに乗った小此木山高校の勢いは、まだまだ止まらないように見えた。

 だけど、そこまでだった。

 次のサーブを、相手は上手く拾った。スパイクは、あっくん達2人のブロックの横を擦り抜けるように打たれた。そのボールを、1年生らしい人がなんとか拾い上げる。そこにセッターが駆け寄る。あっくんがスパイクモーションに入る。また、あっくんの強烈なスパイクが相手コートを打ってくれると思っていたのに、あっくんの打ったボールはコートを大きく外し、アウトになってしまった。

 あっくんの体に、手形もシミもないように見える。スパイクを失敗した理由が分からない。あっくんに何があったのか不安に思っていると、セッターがあっくんに片手を上げて謝っていた。よく見ると、他のチームメイトもセッターに声をかけている。さっきのスパイクミスは、あっくんじゃなくてセッターに原因があるのだと分かって、少しほっとした。

「ちょっと手元が狂った」

 声は聞こえないけど、セッターはそんなふうに返事をしているように見える。

 単純なミス。手元が狂うことなんて、誰にでもある。でも、本当にそうだろうか?

 俺の心に疑念が湧いた。

 試合中、度々あっくんに黒い手形は憑いた。だけど、それをシェパードはすぐに散らしてくれるから、あっくんへの影響は全くないと言っていい。

 注目する相手をあっくんからセッターに移す。セッターの動き出しが、少し遅くなった気がする。スパイクは止められるようになり、タイミングが合わないこともあった。そして、あっという間に逆転された。

 突然、プレイを中断する笛が鳴った。下を見ると、武内先生が何か合図を出している。先生の隣にいた唯一の控えがコートに入って行き、代わりに戻って来たのは、セッターの人。

「三重を下げるか……」

「調子悪そうだもんなぁ」

「セッター不在でどこまでやれるか」

 セッターの名前は、三重さんだと分かった。多分、先輩だろう。3年の先輩達の会話から、三重先輩に代わって入った控え選手は、セッターでないらしい。それでも、下げないといけない程の不調の原因。少し前から抱いていた疑念が、確信に変わった。


 あっくんに生霊を飛ばしていたのは、この人だ。

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