神山の後ろに戻ったハチは、しっぽを振りながらまたドヤ顔で俺を見上げてきた。俺もまた、微笑んで頷いてやった。そんな主従のやり取りに何か気付いたのかそれともただの偶然か、神山がふいに俺を振り仰ぐ。一瞬戸惑った俺がひきつった笑顔で小さく手を振ると、神山は小首を傾げながらも小さく手を上げて応えた。

 この、神山とのやりとりのせいかどうかは知らないけど、ただ後ろで控えているだけだった犬に、変化が起きた。正しくは、シェパードに。


 その後も、あっくんの体にまとわりつく黒いモヤは現れ、黒い手形に変化した。ハチは、あっくんの体に黒い手形が憑くと、コートに駆け込んだ。そのハチを追い越してコートに駆け入る黒い影。神山が率いる犬の1匹、シェパードだ。他2匹が全く動かない中、シェパードはものすごい速さでコートに乱入し、あっくんの体に憑いた黒い手形に頭から突っ込む。シェパードの頭突き1つで、黒い手形は弾けて消えた。シェパードは、あっくんに突進した勢いのまま選手の足元を潜り抜けてコートの向こう側まで行くと、体育館の端を走って戻って来た。そして、何事もなかったように、ハチの隣に座る。

 ハチの仕事を、手伝ってくれたのかな?

 ハチは、ラブラドールと仲が良い。ラブラドールには何度も助けられていたから、シェパードのこの行動は意外だった。

 ハチは、自分の仕事を取られたのが不満なのかシェパードを見ているのに、シェパードはなぜか、俺を見る。

 えーっと……シェパードに何か言わないといけないのかな?

 そう考えているうちに、神山がまたこっちを見た。俺は『何でもないよ』と声を出さずに言いながら、軽く手を振る。神山は『分かった』と言った感じで頷いて、コートに視線を戻す。そのやり取りで何を思ったのか、シェパードがすっくと立ち上がり、尻尾を振りながら俺に笑顔? を見せた。そんなシェパードから『俺に任せろ!』なんて声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。

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