「月山、ナイスキー!」
「ナイスキー!」
大きな声が聞こえて、思わずそっちに目をやってしまう。俺達の数メートル先、小此木山高校チームの真後ろ側に、上級生らしい男子が4人いた。
「『ないすき』とはなんだ?」
日山に声をかけられ、顔を戻す。
「ナイススパイクって意味の声援」
「そうか。じゃあ、月山は褒められたんだな」
日山は嬉しそうな顔をして、視線をコートに戻した。
見たいと言ってついてきた割に、日山はバレーのルールがよく分からないらしく、度々質問を投げかけてくる。
「お前ら、1年に負けてんぞー」
「先輩の意地、見せてやれー」
声援に続き、今度はやじを飛ばす上級生は、バレー部を引退したばかりの3年生だろう。静かに見ている俺達とは違い、声援とともに手厳しいやじも飛ばしている。
「お前ら! あんまりうるさくするなら、追い出すぞ!」
下から武内先生が怒鳴る。先輩達は「さーせん」と言いながらも笑っている。
現在、11対4。大差で負けている。3年生が引退したため、この中に、あっくん以外の1年生も数人いるはずだ。そのせいか、レシーブミスによる失点が目立つ。あっくんもレシーブを失敗する事があっても、その長身を生かした強烈なスパイクで、相手から2点も奪っていた。
「次は月山のサーブだ!」
あっくんのサーブが回って来た。
笛が鳴った。あっくんはボールを高く放り投げ、数歩歩いて跳んだ。ジャンプサーブだ! 背の高いあっくんの、さらに高い位置からの強烈なジャンプサーブ。
「おお!」
ギャラリーから感嘆の声が上がる。あっくんの強烈なサーブは、体を少し引いた相手選手の横を通り過ぎ、大きな音を立てて向こうの壁に激突した。
「すいませーん! 失敗しましたー!」
頭を掻きながら悪びれた様子もなく謝るあっくんを、チームメイトは肩や背中を叩きながら「どんまい」「次は決めろよ」と、声をかける。さらに点差が開いたことに対する苛立ちや、焦燥感は全く見えない。練習試合だし、まだ1セット目だからかもしれないけど。
相手にサーブ権が移り、あっくんは前衛のライト側に戻る。ホイッスルが鳴り、サーブが打たれる。相手コートに目をやっているわずかな間に、俺はあっくんの体の変化を見落としていた。
いつの間にか、あっくんの右肩に黒いモヤがまとわり憑いていた。
あっくんの肩から黒い湯気が上っているように見えるそのモヤは、あっくんが動く度に揺れ動く。
いつの間に? 誰が憑けた? あの黒いシミと、関係あるのか?
頭の中を、疑問がぐるぐる回る。
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