ハチをもらってから、見る力が強くなった。前は光の筋程度にしか見えなかった神山に憑いてる犬が、今は生きているのと変わらないくらいはっきり見える。撮影会の時も、神山は俺の近くにいた。この落ち着きのない様子を見ていると、心霊写真の幾つかはこいつが原因なんじゃないかと思えてくる。

 ちょっと恨みがましい視線をシェパードに送っていると、シェパードが俺の視線に気付いたのか、動きを止めて俺を見た。だけどすぐに目をそらし、神山の後ろを通った女子の臭いを嗅ぎに行った。

「山口、他人の話はちゃんと聞けよ」

 突然、軽く頭を叩かれた。顔を上げると、むすっとした顔の神山と目があった。

「また、明後日の方を見てた。山口の悪い癖だ」

「あ、ごめん……」

 ハチをもらってから、さらにいろんなモノが見えるようになった。出来るだけ気にしないようにしてるけど、明後日の方を見て、ぼーっとしている時があると、この前あっくんにも注意された。

「俺はいいが、気を付けろ。それで、土曜の昼だが……」

「土曜日に何かあるのか?」

 突然、後ろから声がした。弾んだ調子の男にしては少し高い声。神山が顔をしかめた理由を確認するまでもなく、声の主が誰か分かる。

「なあなあ、土曜日に何かあるのか?」

「日山には関係ない。それより、写し終わったのか?」

「終わった! それより、土曜日に何があるんだ?」

「あっくん……バレー部の練習試合があるんだ」

「へー。神山、出るのか?」

「出るわけないだろう」

「神山は、試合の写真を撮るために行くんだよ」

「なら僕も行きたい!」

「お前、写真部じゃないだろ」

「山口も写真部じゃないだろ? あ! まさか、写真部に入るのか?」

「いや」

「じゃあ、バレー部に入るのか?」

「それはない」

「じゃあなんだ?」

「試合を観に……」

 昼休み終了のチャイムが鳴った。途端に周囲が騒がしくなる。

「じゃあ、また」

「ああ」

「かーみーやーまー! 僕も行きたいー」

 袖を引いてせがむ日山を無視して神山は教室に入って行った。俺も急いで自分の教室に戻る。

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