『きゅうん……』

 ハチー!!

 叫びそうになるのを必死に抑える。

 ハチは、ゆっくりと秋田犬に近付いて行く。だけど、いつもくるんと巻いた尻尾は情けなく垂れ下がり、最近しっかりと立った耳も後ろにペタンと倒れ、屁っ放り腰がプルプル震えていた。

 ごめんハチ。もういいよ、もういいから……

 怖いのに、俺のために頑張ってくれているハチの姿に、涙が出そうになった。

「おい。聞いてるか?」

「へっ?」

 顔を上げると、神山の不機嫌な顔があった。ますます犬を怒らせてしまうと焦った俺に、神山は表情をふっと緩める。

「本当に、怒ってなんかいない。気にするな」

 慰めるように、神山が優しく俺の頭を叩く。

「あ、うん。ありがと……」

 神山の態度の急変を不思議に思って見ると、ラブラドールがハチと秋田犬の間に入り、尻尾を振りながら、ハチの顔を舐めていた。間に割り込まれた秋田犬にも怒った様子はない。ハチのおかげで、犬達はやっと怒りを収めてくれたようだ。

「あのさ、神山……」

「なんだ?」

 犬達が怒りを収めてくれたのは良かったけど、今度は別の問題が出てきた。

「そろそろ頭撫でるの、やめてもらえないかな……」

 神山と犬の感情は、互いに影響し合っている。さっき、犬達から向けられた敵意は神山の怒りの影響で、神山が怒りを収めてくれたのは、ハチのおかげか、神山が俺に呆れたせいかは分からないけど、神山がやたらと俺の頭を撫でるのは、このラブラドールの影響で間違いない。ハチとラブラドールが仲良くしていると、必ずと言っていいほど神山は、俺の頭を撫でてくる。

「あ! 悪い」

 指摘すると、慌てて手を引っ込める。

「いいんだけど、ちょっと恥ずいから……」

 あまり言いたくないけど、こうも頻繁だと、周りから変な目で見られそうで、お互いに困ることになりそうだ。

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