『きゅうん……』
ハチー!!
叫びそうになるのを必死に抑える。
ハチは、ゆっくりと秋田犬に近付いて行く。だけど、いつもくるんと巻いた尻尾は情けなく垂れ下がり、最近しっかりと立った耳も後ろにペタンと倒れ、屁っ放り腰がプルプル震えていた。
ごめんハチ。もういいよ、もういいから……
怖いのに、俺のために頑張ってくれているハチの姿に、涙が出そうになった。
「おい。聞いてるか?」
「へっ?」
顔を上げると、神山の不機嫌な顔があった。ますます犬を怒らせてしまうと焦った俺に、神山は表情をふっと緩める。
「本当に、怒ってなんかいない。気にするな」
慰めるように、神山が優しく俺の頭を叩く。
「あ、うん。ありがと……」
神山の態度の急変を不思議に思って見ると、ラブラドールがハチと秋田犬の間に入り、尻尾を振りながら、ハチの顔を舐めていた。間に割り込まれた秋田犬にも怒った様子はない。ハチのおかげで、犬達はやっと怒りを収めてくれたようだ。
「あのさ、神山……」
「なんだ?」
犬達が怒りを収めてくれたのは良かったけど、今度は別の問題が出てきた。
「そろそろ頭撫でるの、やめてもらえないかな……」
神山と犬の感情は、互いに影響し合っている。さっき、犬達から向けられた敵意は神山の怒りの影響で、神山が怒りを収めてくれたのは、ハチのおかげか、神山が俺に呆れたせいかは分からないけど、神山がやたらと俺の頭を撫でるのは、このラブラドールの影響で間違いない。ハチとラブラドールが仲良くしていると、必ずと言っていいほど神山は、俺の頭を撫でてくる。
「あ! 悪い」
指摘すると、慌てて手を引っ込める。
「いいんだけど、ちょっと恥ずいから……」
あまり言いたくないけど、こうも頻繁だと、周りから変な目で見られそうで、お互いに困ることになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます