初めて会った時、神山をちょっと怖いと思った。一緒に勉強するようになって、家に呼んでもらって、神山自身を知るようになったら、怖いなんて全く思わなくなった。

「あの……ほんとごめん……」

「…………」

 神山の返事はない。だけど、黙って俺を睨んでいるのを、文字通り肌で感じる。背筋を這い上がる悪寒が、だんだん強くなっていく。



 あっくんに聞いて、俺は5組の神山を訪ねた。

 教室前の廊下に出て、俺も練習試合を見に行くことを伝え、その流れで神山が写真部だったのを知らなかったと伝えると「撮影会の日に会っただろう?」と言われた。

 あの日、結構たくさん来てたなぁと思い出しながら「神山もいたんだね。神山はどこに撮りに行ったの?」と言った瞬間、空気が変わった。

「お前と一緒に、園芸部に行った」



「俺、人の顔とか名前とか覚えるの苦手で……」

 我ながら情けないと思いつつ、しどろもどろに話す。

 神山とは随分打ち解けた。ハチをもらってからは、神山に憑いてる犬の影響もあって、俺にも好意的になった。なのに今、俺は神山が怖くて顔を上げることもできない。

「謝るな。別に怒ってない」


 いや、めちゃめちゃ怒ってんだろ!


 心で叫ぶことすら許されないような、張り詰めた空気。相手が神山じゃなかったら、この場所から即座に逃げ出していただろう。

 日山に紹介された日が初対面だと思っていたけど、神山はその時すでに、撮影会で会った奴だと思っていたらしい。今まで機会がなくて、その話が出なかっただけで。

「俺、神山みたいに頭も記憶力も良くないから……」

「もういい。それで、土曜だが……」

 言い訳を重ねていると、神山は小さく息を吐いて、話題を変えてくれた。神山の言葉から険がなくなった気がして、そらしていた顔を戻すと、後ろの犬と目が合った。犬がじっと、俺を睨んでる。秋田犬なんか、口の端から犬歯まで覗かせている。

 慌てて、再び目をそらす。だけど、背筋を這い上がる悪寒は変わらない。ハチのおかげで、神山や神山に憑いてる犬とは結構仲良くなったと思っていたのに、失言から犬達の信用を無くしてしまった。

『キャン!』

 この状況をどう切り抜けようか悩んでいると、子犬の鳴き声が聞こえ、続けてハチが姿を現した。

 神山は、多分もう怒ってない。怒っているのは、後ろの犬だけ。犬は犬同士、ハチの愛らしさにかかれば、犬歯を見せて唸っている秋田犬も、きっと尻尾を振って許してくれるはずだ。

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