翌朝、こんな夢を見たと、あっくんが教えてくれた。


◇◇◇


 広い劇場で、俺は舞台を観ていた。最初、薄暗くてよく見えない、声もよく聞こえない変な舞台だなって思いながら、ただ観てた。だんだんと明るくなってきたら、舞台上にともを見付けた。

 舞台の上で何やってんだ? て思いながら観ていると、ともが話している相手もだんだん見えてきた。その相手は、赤いスカーフを被って小さな籠を持つ女の子だった。

 マッチ売りの少女かな? て思うと、舞台が暗転した。

 明るくなると、今度は舞台全部がはっきり見えた。花が生けられた花瓶の乗った大きなテーブルと椅子。大きなテーブルの割には、椅子の数は少なかった。

「わあ、すごいごちそう!」

 テーブル上に並べられた食器を見て、女の子が声を上げた。その女の子の、嬉しそうな顔をはっきり覚えてる。

「あの子、私の孫なんですよ」

 ふいに隣の老女に話しかけられた。話しかけられるまで、隣に誰かが座っていることに気付かなかった。だけど、俺はそんなことをちっとも不思議に思わず

「お孫さん、とても可愛いですね。それに、すごくお上手だ」

て言った。

「うふふ。ありがとう」

 老女は上品に笑った。

 ともと女の子しかいなかった舞台上に、いつの間にか男が現れた。今思うと、その顔は俺に似ていた気がする。だけど、観ている時は全然不思議に思わなかった。

 最後は男がなんか喋ってたけど、俺は女の子の方が気になってて、ずっと女の子を見てた。女の子がすごく嬉しそうな、幸せそうな顔をしていたから、本当に良かったって安心した。

 下りた幕が再び上がると、舞台上には、女の子と隣に座っていた老女だけがいた。

「ありがとうございました!」

 女の子が大きな声で言うと、2人揃って深々とお辞儀をしてくれた。俺は精一杯手を叩いて

「すごく良かったぜ!」

 て、叫んだ。


◇◇◇


「そんで『うるせー!』て、寝ぼけた一清に殴られたのが、これ」

 そう言って、額の少し膨らんだ所を指す。

 一緒の部屋で寝ている3つ下の弟の一清くんは、その体格と強肩を買われて、野球チームのキャッチャーをしている。寝ぼけてても殴られたらかなり痛そうだ。

「殴られて痛かったけど、すげー嬉しくてニヤニヤしてたら、一清に病院に連れて行くとか言われて、朝からちょっとした騒ぎになっちまった」

 あんまり会ったことないけど、一清くんは、真面目で責任感が強い子らしい。

「すげーいい夢見ただけだって説明して、やっと納得してくれたわ」

「あはは。お兄ちゃんは大変だ」

「ほんと、兄ちゃんは大変だぜ」

 意味ありげにニヤリと笑って、俺の頭をぽんと叩く。

「でもさ、すげーいい夢見れて、すげー良かったからさ……また何かあれば、言えよ」

「うん。ありがと……」

 なんとかそれだけ言うと、あっくんは、また俺の頭をぽんと叩いた。

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