「とも! これ食え!」

 突然、大きな声で名前を呼ばれて頭を上げると、目の前にスナック菓子とお茶が乗った盆を突き付けられた。

「小雪ちゃんのお下がりだ。食え。俺も食う」

 盆を突き付けながら、反対の手で豪快にスナック菓子を掴んで口に放り込む。

「何悩んでんのか分かんねえけど、食え。そんで話せ」

 俺は食いながら、少しづつ話し出す。

「もっと早く気付いてあげられたんじゃなかったのかな……ハチが連れてってくれなかったら、俺、小雪ちゃんにずっと気付かなかったかもしれない……」

「じゃあ、それはハチのお手柄だな。ハチを褒めてやれ。ともが気にすることじゃねえ」

 確かにそうだ。全部ハチのお手柄だ。俺は見えるだけで、なんの力もない。小雪ちゃんが何を望んでいるのかすら、全然分からなかった。

「ともに落ち込まれると、ただ一緒にいただけの俺は、もっと落ち込む」

「そんなことないよ。あっくんが居てくれてすごく助かった。小雪ちゃんも、見てくれるお客さんがいて嬉しかったって、言ってたし」

 あっくんが一緒に行ってくれなかったら、最後のシーンを演じることもできなかったかもしれない。ただそこにいてくれただけ以上の役割を、あっくんは果たしてくれた。

「本当は、全然見えてなかったけどな。ともが1人で喋ってなんかやってんのを、黙って見てただけだ」

「あっくんがいたから、小雪ちゃんは帰ることが出来たんだよ。俺1人じゃ、多分、出来なかった」

「何もしてない俺でも、役に立てて何よりだ。ともはともの出来ることをしてあげたから、小雪ちゃんは帰ることが出来たんだろ? それで良かったんじゃねえのか?」

「そうだよね……」

 今の俺に出来ることをやってあげた結果だ。出来ないことを悔やんでも、仕方がない。

 あっくんと話していると、少しづつ胸が軽くなってきた。やっぱり、あっくんはすごい。

「今日は、ともがちょっと羨ましかった」

「どこが!?」

 俺からすれば、あっくんの方が羨ましいと思うところがいっぱいある。そんな気持ちから少し強く聞き返すと、意外な返事が返って来た。

「目が良いってことがさ。仕方ないって分かってても、ちょっと羨ましかった」

 そう言って、がばりとスナック菓子を掴むと、口に放り込んだ。

「フリだけじゃなくてさ、本当に見たかったなーって、ちょっと思った」

「……ごめん」

 いつも付き合ってもらって。いつも迷惑かけて。

「謝るな。俺も好きで付き合ってんだからさ」

 俺の言葉を、あっくんは笑顔で一蹴する。

「ちょっと我がまま言ってみただけだ。ともと一緒だ」

 あっくんは優しい。出来ないことを後悔しても仕方がないと、教えてくれた。

 時間がかかってしまったけど、俺に出来ることをしてあげられた。笑顔で帰らせることが出来た。それだけで、良かったと思うことにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る