「マッチ売りの少女の名前は、小雪ちゃんていうみたい。桜ちゃんより少し小さかった。何年前か分からないけど、小学2、3年生で亡くなったんだと思うけど、聞いたことない?」

 あっくん家は、4人も兄弟妹がいる上にお母さんが社交的なこともあって、地元の情報にかなり精通している。線路の向こうは校区が違うけど、あっくんのお母さんから何か聞いたことがあるかもしれない。

「忘れてるかも知らんが、うちの兄弟妹全員、かなりデカいからな。桜より小さい高学年の子も、普通にいるぞ」

「あ、そうか」

 あっくんの上の妹の桜ちゃんは、確か2年生。そういえば、あっくんが2年生の時も、高学年並みに大きかったっけ。

「1年生で劇団に入ったって言ってた。じゃあ高学年で亡くなったのかな……」

「あの辺りで死亡事故があったとかも、聞いたこともないな。その子、事故で亡くなったのか?」

「ごめん。分からない……」

 分からない。あの子がいつなんで亡くなったのか、何も分からない。やっと分かったのが、名前とマッチ売りの少女を演じきれなかったことが心残りだったというだけ。

 あの子は、何年あそこにいたんだろう。もっと早く、気付いてあげられたんじゃなかったのか? ハチが連れて行ってくれなかったら、今でも1人でマッチ売りの少女を演じていたんじゃ……

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