『マッチ。マッチはいりませんか』

 やっぱり今日もいた。マッチ売りの少女は、バスを待っている人に話しかけている。そしてやっぱり、誰も少女を見ない。

「いるのか?」

 公園の植木に隠れるようにしながら見ていると、後ろからあっくんに話しかけられた。

「いる」

 俺は短く答える。

「それで、そのマッチ売りの少女がどんな感じか、詳しく教えてくんない?」

「うん」

 俺は分かる限りのことを、あっくんに話す。

「身長は桜ちゃんよりちょっと小さいくらい。背中にかかるくらいの長さの少し茶色い髪に赤いスカーフを被ってる。服装は、水色の長袖シャツに赤いスカート、白いエプロン。ちょっとおかしいのが、シャツの肘とスカートの一部が、色の違う当て布で縫い合わされてることかな」

 母親は裁縫が得意で、服を修理する時、出来るだけ目立たないように直してくれる。だけどあの少女の服は、繕った所が目立つような直し方をしている。演じているかのような少女との会話。それに、あの服装。やっぱり、マッチ売りの少女を演じているように思える。でも、なんでこんな所で?

「どしたの?」

 あっくんが、不思議そうな顔で俺をじっと見ていた。

「いやさあ、そんなにはっきり見えるのかなあと思って……」

「見えるよ。生きている人と変わらないくらい」

「すげー! 前はそこまではっきり見えなかったよな? やっぱ霊力が強くなったのか?」

「うーん、どうだろう。いつもはっきり見える訳じゃないから、たまたまかも」

「ふーん」

 2人揃ってバス停に視線を戻す。ちょうどバスが発進し、バスから降りた人がこっちに向かって歩いてくる。少女は、バスから降りた人に話しかけているが、やっぱり誰も少女を見ない。

「その強くなった霊力で、あの子が何を望んでるとかは、分かんないのか?」

「さっぱり」

「じゃあ、やっぱ本人に聞くしかねえんじゃね?」

「だよね……」

 人通りがなくなったことを確認し、俺達は少女の元に向かった。少女はハチの頭を撫でている。

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