もしかして、俺、あの子を成仏させてあげたんじゃね?

 そのことに気が付いたのは、翌朝になってからだった。

「ハチ。お前、俺にあの女の子を成仏させたかったのか?」

 ハチは俺の質問には答えず、ただじっと俺を見る。


 小さい頃から変なモノはよく見えた。だけど、あそこまではっきり見えて話まで出来たのは、神山の家以外じゃ初めてだ。

 ごんちゃんが俺にハチをくれた訳。神山のお母さんが言ってくれた俺の霊力。

 彷徨う無垢な魂を、成仏させてあげた。

 それは、見えるだけで何も出来なかった俺の初めての成果。すごく嬉しくて、同時にすごく興奮した。


「とも。何か良いことあったのか?」

「別に」

「そうか? なーんか、朝からずっとにやけてんぞ」

「えっ? そう?」

 言われて頬を押さえる。

 あっくんに昨日のことを話したいと思いながら、学校で話しは出来なかった。


 夜に電話しようと考えながら自転車を飛ばしていると、子犬の鳴き声が聞こえた。

「ハチ?」

 信号待ちで止まった所で、小さく声をかける。体からふわりと淡い光が現れ、それが自転車の前かごに入ると、子犬の姿に変化した。

『キャン! キャンキャン!』

 ハチは左の道の方を向いて、盛んに吠える。家に帰るなら真っ直ぐだ。ハチが示す方向には、駅がある。

「もしかして、あっちに行けって言ってる?」

『キャン』

 ハチは『そうだよ』と言わんばかりに俺の顔を見て鳴くと、尻尾を振った。

「あー……」

 俺は嫌な予感を感じながら、ハチの示す通りに進んだ。

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