「あー……はい。じゃあ、1つください」

 ポケットから財布を取り出し、とりあえず1つ買ってあげようとすると

『ちがーう! お金はまーだ!』

「へっ?」

 何故か、ぷっくりと頬を膨らませた少女に怒られた。

『最初はお花!』

「花?」

『そうよ。『お金なくてごめんね』て、お花くれるの。忘れちゃったの?』

 マッチ売りの少女って、そんな話だったっけ?

『お花、持ってきて!』

「あー、はいはい。ちょっと待ってね」

 ぷんぷんと可愛く怒る少女が手に負えず、俺は花を探しにその場を離れる。

 近くに花屋があったかなと歩きながら考えていると、ハチが俺を呼ぶように吠えた。吠え声を頼りにハチの姿を探すと、ハチは公園の入り口に立っていた。ハチに付いて行くと、公園の植え込みの端に、たんぽぽに似た花が生えていた。

「これ?」

 花だけど、これは雑草だ。こんなのでいいのか迷う俺に対して、ハチは尻尾をぶんぶん振って、どこか誇らしげに俺を見ている。

「まあいいか。ハチ、見付けてくれてありがとう」

 そう言うと、ハチは嬉しそうに『キャン』と鳴いた。


「えーと……お金なくてごめんね」

 たんぽぽに似た黄色い花を3本少女に差し出すと『まあ! きれいなお花』と少し大袈裟に驚いた。

『私にくれるの?』

 少女はにっこり笑って俺を見る。

 くれるも何も、自分が持って来いって言ったんじゃないか。

『あ……うん』

 戸惑う俺は、そんな間抜けな返事しかできなかった。

『ありがとう。その気持ちがうれしいわ』

 受け取った花を胸に抱くと、少女は嬉しそうな笑顔を浮かべたまま薄くなって消えた。

 少女が消えた後には、黄色い花だけが残された。

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