小学生らしい少女に頭を撫でられ、ハチは尻尾を振っている。赤いスカーフを頭に被り、手には小さな籠。その格好は、どう見てもマッチ売りの少女。

 どうしようかと考えながら様子を見ていると、少女の少し向こうにバスが停車した。それに気付いた少女はハッとした顔でバスを振り返ると、ハチを撫でるのをやめて立ち上がった。

『マッチ。マッチはいりませんか』

 マッチ売りの少女定番の台詞。バスから降りた人に話しかけるが、誰も少女を見ようとしない。

『どうしよう。全然売れないわ』

 少女が悲し気に呟く。

 それはそうだろう。ハチに触れられると言う事は、あの少女、生きてはいない。あの人達には、少女の姿はおろか、声すら聞こえていないに違いない。

 それより、あの子はなんでこんな所でマッチを売ってるんだろう?

『キャン!』

「うわっ」

 少女に気を取られているうちに戻っていたハチに吠えられ、思わず声を上げた。

「ハチ、しー……」

『キャン、キャン』

 その鳴き声は『何してんの?』と問いかけているようで、決して大きくはない。けれど

『マッチはいりませんか?』

 少女に俺の存在を気付かせるには十分で、いつの間にか、俺のすぐ近くに立っていた。

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