ことの起こりは3日前。学校から帰宅し、自転車を駐車場の奥に止め、玄関ドアに手をかけた瞬間、子犬の鳴き声がした。

「ハチ?」

 小さく声に出して呼ぶと、体からふわりと淡い光が現れた。それが地面に着くと、子犬の姿に変わった。

 最近、片方だけ立った耳と真っ黒な目を俺に向ける。丸まった尻尾をパタパタと振り『キャン!』と一声大きく鳴くと、外に走って出て行った。

「ハチ!」

 思わず大きな声を上げて後を追う。ハチは数メートル離れたところに立っていた。俺の顔を確認すると、きびすを返し再び走り出す。まるで、付いて来いと言わんばかりに。

 俺は重い鞄を背負ったまま、ハチを追いかける。通学路を戻るなら自転車で来れば良かったと後悔していると、途中から通学路とは違う駅への道に向かった。

 駅に近付くほど人が増える。ハチを見失わないように、同時に、あの小さな体が誰かに蹴飛ばされやしないかと要らぬ心配をしながら、後を追う。踏み切りを渡り、さらに数分走ると、少し大きな公園がある。

『キャンキャン』

 公園の前でハチを見失って慌てていると、角を曲がった辺りからハチの声がした。

「ハチ……!」

 小さく呼びながら角を曲がり、俺は驚きのあまり目を丸くした。

『かわいい! あなた1人? どこから来たの?』

 そこには、ハチの頭を撫でるマッチ売りの少女がいた。

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