マッチ売りの少女に会いに行こう

「あーそーぼー」

 ドアを開けると、180センチ超えの大男が、バレーボール片手に人好きする笑顔を浮かべて言った。

「俺、バレー出来ないよ」

「ともとバレーしようとは思ってないけど?」

 そう言いながら、バレーボールを指の先でくるくる回す。

「遊んでたら喉渇いた。水飲まして。そんで遊ぼう」

「俺、もうちょっとしたら出掛けると思うけど……まあいいか。上がって」

「お邪魔しまーす!」

 奥まで届くような大きな声を上げながら、靴を脱ぐ。

「いらっしゃーい。ゆっくりして行ってねー」

 奥の扉が開き、母さんが顔を出した。

「ありがとうございます」

 あっくんの返事を聞くと、母さんは笑顔を残して扉を閉めた。

「おばさん、今度は何作ってんの?」

「さあ」

 母さんの趣味と実益を兼ねたハンドメイドはそこそこの腕前らしく、パートのない日は何かしら物を作っている。9月に大きなフリマがあるらしく、その出品に向けて忙しいようだ。


「はい」

「サンキュ」

「おかわりは自分で入れて」

「了解」

 盆にグラスと麦茶のポットを乗せて、自室に運ぶ。1杯目は入れて渡したけど、2杯目からはセルフだ。いつものことだから分かっているだろうけど。

「とも、エアコン付けて」

「もうちょっとしたら出かけるって言っただろ。扇風機で我慢して」

「出掛けるってどこに?」

「駅向こうの公園近く」

「公園? 何しに?」

「マッチ売りの少女に会いに」

「は?」

 盛大に顔をしかめられた。

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