「ともは、気付いてなかったのか?」
「なにを?」
「倒れてた人、左手がなかっただろ」
「えっ?」
「長袖から右手は見えてたのに、左手は見えてなかっただろ?」
「そう……だっけ?」
霊やらなんやらは見えるくせに、普通に見えることは結構見落とす幼なじみに、俺の仮説を話してみる。
「ハチが咥えて来たっていう手は、あの人の左手だったんじゃないのか? 朦朧とした意識の中誰かに助けを求めて、失ったはずの左手がその意識を受けて動いた。それをハチが見付けて、お前のところに持ってきたんだと思ったが、違うか?」
「うわー! 失くなった手が、本体を助けるために動いたっていうの? なんかすごい変な話!」
「お前が言うな」
自分を棚に上げて驚くともを、苦笑しながらツッコム。
「真相はどうあれ、あの人を助けられたのはハチのお手柄だよ! やっぱりハチは賢いなー」
そう言いながら、ともは空中を撫でる。
見えても、触ることができないと言っていた。撫でるフリをしてるだけでも、ハチはすごく喜ぶと言っていた。ボールを転がすのも、触れないペットとの触れ合いの1つなのかもしれないと、ともの様子を見ながら思った。
「なあ、俺もハチにボールを転がしてやってもいいか?」
「いいよ。でも、取れるようにゆっくりね」
いないのと同じだと思っていた子犬の存在を初めて感じることが出来て、ちょっとだけ、この子犬と仲良くなりたいと思った。少なくとも、俺に好感を持ってくれたらいいなと思って、小さなボールをともより少しだけ強く転がす。
ボールは机に当たる少し手前で、ピタリと止まった。まるで、そこで何かにぶつかったように。
「すごいよ、ハチ! あんな速いボール、上手に止めた!」
「そうだな……」
ペット親バカ丸出しのともに適当な返事をしながら、見えない子犬に視線を向ける。この子犬は、もっとすごいことをするようになりそうだなと、直感的に思った。
「ハチは、賢くてすごい犬だな」
ぽつりと呟いた俺にも、元気な子犬の鳴き声が聞こえた気がした。
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