「ハチ、出ておいで」
自室に戻って声をかけると、体から淡い光が現れ、すぐに子犬の姿に変わった。
「あのね、ハチ…」
正座して座ると、ハチは俺の真正面に来て、俺を見上げる。そのまん丸い目は『なあに?』と問いたげに、俺の言葉を待っている。
「あのね、悪い霊を追い払おうとしてくれるのは嬉しいけど、悪い霊でも無視しておけば、勝手にいなくなることもあるから」
ハチは言ってることが分からないとでもいうように、小首を傾げた。
「だからね、神山が助けてくれたから良かったけど、ハチ、危なかったでしょ」
『きゅうん…』
ハチがすまなさそうに頭を下げ、上目遣いで俺を見る。その健気な様子に心が折れそうになるが、いつも神山に助けてもらえるとは限らない。こういうことは、きちんと教えておかないと。
「あの男は確かに悪い霊だけど、ハチが吠えなかったら、気付かず通り過ぎてたかもしれないでしょ」
『くぅん…』
萎れた声で返事をし、上目遣いで伺うような顔で俺を見る。
怒られてるのは分かってるみたいだけど、怒られてる理由、本当に分かっているのか?
「だからね、えーっと……悪い霊に対しても、無闇に吠えちゃダメだよ。分かった?」
『きゃん!』
最後の返事だけはいい。分かってくれたのかどうか怪しいが、この日の話はこれで終わりにした。
後で神山のお母さんに、このことを話すと
「悪いことを叱る時は、その場ですぐ叱らないと、なんで叱られてるのか伝わらないわよ」
と言われ、頭を抱えた。
人の多い学校で、ハチを叱るなんて無理!
この後、どうやってハチを教育するか悩んでいたが、最後の「無闇に吠えちゃダメ」をきちんと理解してくれたらしく、ハチが学校で吠えることはなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます