幼なじみと見えないペット
試験が終わって部活にばかり励んでいたから、ともの様子がおかしかったことになかなか気付かなかったのは、俺のミスだ。
ともが、神山家の狐の姿をした神様から子犬をもらったと聞いたのは、試験が終わって数日後の昼休み。不自然に足元に視線を走らせてにやけた笑みを浮かべる姿は、側から見てすごく気持ち悪かった。これは何かあると思って、すぐ誰もいない場所に連れ出しわけを尋ねる。
「ハチって名付けたんだ。茶色くて、耳が折れてて、尻尾がくるんと巻いた子犬。すっげー、かわいいんだ!」
尋ねた俺に向かって、ともは満面の笑顔で嬉しそうに説明した。
「そうか。良かったな」
きっと、誰かに話したくてうずうずしてたんだろう。ともの様子は、新しいペットに浮かれ切ってる飼い主そのものだ。とりあえず、変なモノに取り憑かれたんじゃないと分かって、安心した。
「ほらほら! 今、あっくんの足元の臭い嗅いでる! ほら、足にじゃれ付いてあっくんを見上げてるよ! ハチに顔、見せてあげて!」
言われた通り下を向く。当たり前だけど、俺には見えないし足にじゃれ付かれてる感じもしない。いつものことと諦めているけど、こういう時どう動けばいいか分からなくて少し困る。そんな俺を無視して、ともはしゃがんで1人でしゃべり続ける。
「ハチ、この人はあっくんだよ。俺の親友。そうそう、偉いね! ハチは賢いね!」
「とも。あのさ……」
「何? どうしたの?」
虚空を撫でながら明るい声で返事をする親友に、俺は軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、しゃがんで目を合わせる。
出来るだけ真剣な顔を作り、小首を傾げて俺を見るともの目を真っ直ぐ見つめ、はっきりと言った。
「とも。外でハチに話しかけるのはやめなさい。お前、さっきからすごく気持ち悪いぞ」
この言葉が効いたのか、ハチが姿を現すことがなくなったのか分からないけど、学校で気持ち悪い笑顔を見せることはなくなった。
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