「そういえば、俺に何の用?」
「いや、用がある訳じゃないんだが……」
変な雰囲気が流れるのを回避しようと、尋ねたのが悪かった。これじゃ、用もなく来たのが悪いようだ。実際、神山が来てくれて、すごく助かったんだけど。
神山が、俺の質問に頭を傾げて考え込んでいると
「心の友ー! 助けてくれー!」
デカい声と共に、神山の背中にデカい男が飛び付いた。言わずと知れたあっくんだ。あっくんは、幼なじみの俺を「とも」と呼ぶのに、神山のことは「心の友」と呼んだ。
「何を?」
神山は振り向きもせず、冷静に問いかける。
あっくんが神山を「心の友」と呼ぶのは、大概勉強を教えて欲しい時なのを、神山も分かっている。
「次の時間、数学の小テストがある」
「そうか、頑張れ」
「範囲は狭い! だけど難しい! 少しでいいから教えて!」
「あっ! 数学の小テスト!」
無駄な足掻きと言われようと、この休み時間に勉強しようと思っていたのに、すっかり忘れてた。
あっくんのついでに、俺も教えてもらおうと思ったら、廊下から大きな声がした。
「神山、いたー!」
日山が人の間を縫いながら、こっちに向かってくる。
「英語! ノート貸してくれるって、言ってただろ?」
「もう貸した」
「まだ写し終わってない! 後でまた貸してくれるって言ってたのに、チャイム鳴った途端、いなくなった!」
日山が、神山の腕を掴んで言った。
「急用だ」
「急用ってなんだよー!」
「数学の小テスト」
神山の代わりに、なぜかあっくんが答える。2人の視線がばちりと合った。
「数学なら僕が教えてやるから、神山返せ」
日山が、神山の腕を引く。
「悪いけど、数学は次の時間だから、神山を返す訳にはいかない」
あっくんは、神山の肩に回した腕を引く。
「こっちも、英語は次の時間で急いでるんだ!」
勉強に関わる時だけモテモテになる、優等生あるある。2人に引っ張られて嫌そうな顔をしながらも、神山は何も言わない。その様子から、多少の慣れと、諦めが見て取れる。
2人は神山に頼りすぎだなと考えて、ふと思い出す。俺だってさっき神山に助けてもらったし、神山のお母さんにもすごくお世話になっている。この2人以上だと考えると、本当に申し訳ない。
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