『うわあぁ!』

 黄色い毛皮が、男を襲った。毛皮だと思ったそれは大型の犬、穏やかで優しいイメージの強いラブラドールレトリバー。その犬が、男の腕に鋭い牙を立て、唸り声をあげながら噛み付いていた。

『イッ……! はなせ……』

 腕を噛まれ、堪らずハチを投げ捨てる。

『きゃうん』

「ハチ!」

 机の上に投げ出されたハチは、ころころと転がって机から落ちそうになった。伸ばした手がハチは擦り抜け、机から落ちると思った時、男に噛み付いていたラブラドールが素早く降りて、その大きな口で、ハチを捕まえる。ほっと胸を撫で下ろしていると

『ゥワン! ワンワン! ワンワン!!』

 別の吠え声がした。びっくりして振り向くと、黒い大きな影が目の前を横切り、窓の外に飛び出した。

 ラブラドールから逃れた男は、これ幸いにと窓の外に逃げていた。黒い影、もといシェパードは、ラブラドールの代わりに男を追っている。男は、シェパードに激しく吠えられ、情けない声を上げながら空中を走って逃げていく。

 そういえば、ここ3階だった。

 犬に追いかけられ、空中を走って逃げる男の姿はアニメのようで、その姿をぼーっと見ていたら、声をかけられた。

「山口。何を見てる?」

「神山」

 あの2種類の大型犬を見た時から、分かってた。あれは神山の護衛に憑いてる犬だ。残りの1匹を探して見ると、神山の隣にぴったりと寄り添うように立っていた。

 男に気をとられているうちに、授業は終わっていたようだ。

「UFOを見たかと思ったけど、ただの鳥だった」

 ハチが呼んだのか、男の気配を察してかは分からないけど、神山が来てくれて本当に助かった。だけど、そのことを伝えることは出来なくて、笑って適当な答えを返す。

「そうか。それは残念だったな」

 俺の適当な答えに、神山は優しく微笑んだ。

 ちらりと横目で確認すると、机の上でラブラドールがハチをペロペロ舐めていた。多分、労ってくれてるんだろうけど、神山に影響が出るからやめて欲しい。

 男を追い払ったシェパードが戻って来て、神山の足元に降り立つ。それが合図のように、ラブラドールもシェパードの隣に降りた。

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