これまでの俺なら、無条件に怖がっていたと思う。だけど、ばあちゃんのお守りが無くなって、神山のお母さんにいろいろ教えてもらった今の俺は、こんな奴に負ける気はしない。

 そんな気持ちを込めて睨み返すと、男がわずかに怯んだのが分かった。

 俺にはこいつを追い払う力はない。だから『あっちに行け!』と強い気持ちを込めて、ただ睨み返す。

『チッ……』

 男は小さく舌打ちすると、俺から視線を逸らし、再びハチを見た。

『このイヌッコロが』

 吐き捨てるように言って、ハチに手を伸ばす。

「ハチ」

 思わず声を上げて男の手を阻もうとしたけど、実体のないその手に触れることさえ出来ない。

 伸ばされる手から逃げることなく吠え続けるハチは、男にあっさり捕まった。

『じゃあな』

 男は勝ち誇った顔を俺に向け、ハチを掴んだまま逃げようとした。男を止めなければと立ち上がった瞬間

『グァウッ!!』

「!!」

 鋭い鳴き声と共に、黄色い光が目の前を横切った。

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