「そういや、この子の名前は?」
「そういや、聞いてないな。名前あんのかな?」
「ともくんにって、くれたんだろ?」
「あー、えっと……そうかな?」
「ともくんがもらったんなら、ともくんがちゃんと名付けてあげないと」
「そうなの?」
「そうだよ」
苺大福をもらえないと分かったからか、子犬は再び仏壇の方に行き、熱心に臭いを嗅いでいる。
「ばあちゃん、どんな名前がいいと思う?」
「それもともくんが考えなあかんよ。ともくんの犬になってくれる子なんだから」
「そっかー。うーん」
仏壇の臭いを嗅ぐのに飽きたのか、今度は部屋の中を走り出した。
「おい、どんな名前がいい?」
テーブルの下を覗き込みながら、子犬に声をかける。見えないところでおしっこでもされていたら堪らない。声をかけると、遊んでと誘うように、お尻を上げ尻尾を振った。
「出ておいで」
テーブルの下で手招きして子犬を呼ぶ。とことこと近付いて来たから、ちゃんと呼ばれたのが分かってんなと、喜んだのも束の間。俺を無視して通り過ぎた。
「ちゃんと名前を呼んでやらな、言うこと聞かんよ」
子犬に無視され唇を尖らせる俺に、ばあちゃんは諭すように言う。
「名前で呼んだら、来てくれんの?」
「多分ね。小さいけど賢い子やと、ばあちゃんは思うよ」
「賢いねー」
俺は少し考える。
「じゃあ、ハチ公……ハチでどう?」
日本一有名な、賢い忠犬。それにあやかった名前を上げてみる。
「子犬に聞いてみ」
「ハチ! お前の名前、ハチでいいか?」
そう呼ぶと、子犬は頭を上げて俺を見た。そして、とことこと俺の前に来ると、ちょこんとお座りして俺の顔をじっと見上げる。
「お前の名前は、ハチだよ。それでいい?」
「キャン!」
元気な返事だ。俺は嬉しくなって子犬のハチを抱き上げる。ハチは嬉しそうに俺の顔を舐めた。
「それじゃあね、ともくん。ばあちゃんそろそろ行くね」
どっこいしょとテーブルに手を付いて立ち上がる。
「どこ行くの?」
「大丈夫。また来るから」
ばあちゃんは俺の質問には答えず、そう言って笑った。
「そうそう! ともくん、もっと聖子さんを頼っていいと思うよ」
突然出た名前に驚いた。聖子さんってのは、神山のお母さんの名前だ。
「何でもないような小さいことも連絡しなね。そしたら、あちらさんも色々聞いてくれて、教えてくれるからね」
そう言って、出て行こうとするばあちゃんの背中に、俺は慌てて声をかける。
「ばあちゃんごめん! ばあちゃんにもらったお守り、壊した!」
ばあちゃんは、扉に手をかけたまま振り返った。いつもの優しい笑顔を浮かべて俺を見る。
「気にしなくていい。あれはとっくに寿命が来てたんよ。私と一緒ね」
「ばあちゃん……」
何故だか急に悲しくなった。目に涙が浮かんでくる。
「大丈夫、また来るから。ともくん。寝坊せんと、ちゃんと起きや」
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