あれから1週間が過ぎた。俺の霊力はまだ戻っていないと思う。もともと頻繁に見たり感じたりしていた訳じゃないから、気付いていない可能性もある。だけど、神山に会っても何も見えないし感じないから、まだなんだろうと判断する。


「やっと終わった」

 期末試験、全科目終了。結果はどうあれ、今は勉強のことは忘れたい。

「ともー!」

 手を上げてあっくんが来る。

「あっくん!」

「「イェーイ!」」

 パチンと小気味よい音を立てたハイタッチ。試験お疲れの意味を込め、あっくんがあちこちでハイタッチをして回る。運動部らしいというか、あっくんらしい。

「月山口ー!」

「繋げて呼ぶな」

「いてっ」

 日山が、誰を呼んでいるのか分からないような呼び方をしながらやって来たから、軽く小突いてやった。

「日山、お疲れ!」

「?」

 日山は、片手を上げたあっくんを不思議そうに見上げる。

「ハイタッチだよ、試験お疲れの意味の」

「おう! そうか!」

 丁寧に説明され、ようやくバチンと手を叩いた。ハイタッチと言うより、手を思いっきり叩いていたが、あっくんに気にした様子は無い。

「神山もお疲れ」

 日山に少し遅れて入って来た神山にも手を上げる。こっちは逆に、ほとんど音が鳴らなかった。

「なあなあ、4人で打ち上げ行かないか? 打ち上げ」

 日山がわくわくした顔で言う。

「俺、部活あるから無理」

 あっくんが満面の笑顔で答える。久しぶりに部活が出来るって、朝から浮かれていた。相当体が鈍ったらしい。

「えー! 早速あるのか? 科学部は?」

「ないよ」

「いいなー」

「日山もバレー部に入るか?」

「入んない。バレー部じゃ実験出来ない」

 科学部は、もともとそんなにやる気のある部活じゃない。試験終了直後から活動する文化部って、吹奏楽部くらいじゃないかなと俺は思う。

「じゃあ悪いけど、お先」

「あ、うん」

「バイバーイ」

「また」

 いそいそと嬉しそうに教室を出るあっくんを見送って、日山に向き直る。

「じゃあ、3人で行く?」

「悪い。俺も用がある」

 日山の後ろからぼそりと神山が答えた。

「えー! じゃあ何で4組に来たのさ?」

 文句を言う日山を完全に無視して、神山は俺をじっと見る。

「昨日、見付けた。山口のじゃないか?」

 差し出されたのは、シャーペン。

「うん、俺のだ」

「返すのが遅くなった。悪い」

 ぺこりと軽く頭を下げ、また俺をじっと見る。

「いいよ、シャーペンくらい。でもサンキュ」

 笑って手を出すと、神山の鋭い目が少し柔らかくなった。もしかして、返すのが遅くなったことを気にしてたのかな? シャーペンなんか他にもあるのに、意外に小心なのかもしれない。

 俺が出した手に神山がシャーペンを乗せてくれた瞬間、何かの鳴き声がした。

「どうした?」

 思わず辺りを見回す。クラスメートの半分以上はすでにいない。残った人達も、それぞれ離れた場所で談笑している。

「あ、ごめん。何でもない」

 鳴き声はすぐ近くからした気がした。短く甲高い

『キャン! キャンキャン!』

 そうこんな感じ、子犬が鳴くような声。

「!!!」

 びっくりして、握ったままのシャーペンに目を落とす。シャーペンが淡い光を放っていた。

 光はシャーペンからにじみ出し、小さな塊になってゆっくりと床に落ちると

『キャン!』

 子犬になった。

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