「うちにはね、神様がいるの」
帰りの車中、お母さんがこんな話をしてくれた。
「昔、神山家はこの辺一帯の地主だったこともあって、この辺一帯を守っていたとかいないとか」
「どっちなんすか?」
あっくんが笑って尋ねる。
「昔の話だからね、よく分からないわ。今は普通の不動産屋さん」
バックミラー越しのお母さんと目が合った。
あっくんは助手席、俺と日山は後部座席。
走り出してすぐに日山が船を漕ぎ始めるのを見ると、お母さんは「みんなも寝てていいわよ」と言ってくれたけれど、俺は別に眠くない。助手席のあっくんは、しきりにお母さんに話しかけている。暇な俺は、あっくんとお母さんの話を黙って聞いていた。
そんな中、お母さんが話してくれた、神山家と神山の昔の話。
「でも、神様付きの家であることは変わらないの。この辺ではちょっと有名でね、神山家に何かすると祟られるとまで言われてるのよ」
「ちょっと怖いですねー」
あっくんが軽い調子で相槌を打つ。お母さんは、あっくんの様子を気にすることなく話を続ける。
「昔、悟の友達が家で倒れたことがあったの」
「えっ?」
「祟りですか?」
唐突な話に驚いた。あっくんは話の流れから、祟りのせいだと思ったようだ。でも、お母さんの返答は違った。
「そうじゃないって言いたいけど、原因不明だからね……」
バックミラー越しに、困ったようなお母さんの顔が見える。
「裏にはね、ご神体が置いてあるの。さっきも言ったように祟る神様だから、裏は立ち入り禁止にしてるの」
そういえば、朝も日山が裏に行こうとした時、神山が止めていた。
「小学1年生の時かな、悟がお友達を大勢連れてきたの。その中に、引っ越してきたばかりの子がいてね。他の子はみんな神様憑きの家だって分かってて、うちの裏には絶対行かないのがルールとして定着してたから、油断してたわ。ちょっと目を離した隙に、裏に入ってしまったの。ボールを取りに行ったとかでね。
何があったのかは、よく分からない。
ボールを手に持ってみんなのところに戻った途端、意識を失った。すぐに目を開けてくれたけれど、その時、すでに様子がおかしかった。
すぐに家に送り届けて、その子のお母さんに謝罪と分かる限りのことを説明して『おかしなことがあれば、すぐに連絡ください』と伝えた。数日後に改めて謝罪に行ったけど、その子のお母さんは『大丈夫ですよ』と笑ってくれた」
お母さんの話し方がちょっと引っかかる。『お母さんは』てことは、その子は何かあったと訴えたんだろうか?
あの家の裏に、瘴気が流れて行くのを俺も見た。お母さんは、その瘴気の影響を心配して伝えたんだろう。
「その子、うちで怖いお化けを見たと言ったらしくて。その子のお母さんは、見間違えただけだと言って、その子の言うことを取り合わなかった」
その気持ち、分かるな。俺の親も、なかなか信じてくれなかった。
「だけどね、子供達は違ったの」
お母さんの顔が、少し辛そうに歪んだ。
「昔から、足音や不自然な物音がする家だったの。それを私は『神様の足音』と教えていたんだけど、その子の話が子供達の間で広まって、いつの間にか『神様のいる家』から『お化けのいる家』に変わってしまった。神様だと怖くないのに、お化けだと怖いのね。大した違いはないように思うんだけど」
怖い老婆を追い払ってくれて、表情豊かでフランクな会話を好む狐の神様。優輝に至っては、同じ年頃のただの子供だ。怖がることなんか全然ない。だけどそれは、俺には見えて聞こえるからで、見えない人に、怖くないと説明するのは難しい。しかも、子供相手に。
「それ以来、あの子が友達を家に呼ぶことはなくなったの。その上、あの子なりにうちで起こる現象の原因を調べた結果、あんな頑固な子になっちゃって」
重い空気が流れる。それを感じてお母さんは「ごめんね、変な話して」と笑った。
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