その後の神山は、少し穏やかになった気がする。

 廊下で足音がして、あっくんが「幽霊が走ってるぞ」と軽く言うと「幽霊なんかいない」と軽く受け流した。幽霊を否定しながらも、無理にその原因を説明しようとしなくなった。俺達もだんだん慣れてきて、物音程度は聞き流せるようになった。


「みんな食べ盛りなんだから、これぐらい食べられるでしょ」と日山リクエストのハーフ&ハーフのピザ4枚に数種類のサイドメニュー。テーブルに並べるのも苦労するほど大量で、とても5人で食べきれる気がしなかったのは、俺だけだった。体の大きいあっくんや神山だけでなく、日山にまで「少食だな」と言われたのが心外で、「日山は小さいのによく食べるんだな」と言い返すと「山口、まだ腹の具合が悪いのか?」と、すっかり忘れていたことを蒸し返された。みんなに心配そうな顔で見られ、優輝には爆笑された。


 昼飯をご馳走になった上、夕飯まで食べて行けと言う神山親子の申し出を丁寧に断ると、今度は家まで車で送ろうと言ってくれた。再び断るのは申し訳ない。だけど、家まで送ってもらうのはもっと申し訳ないなと思って困っていると、あっくんが「じゃあ、駅まで送ってもらえますか? 歩くのちょっと遠いので」と丁寧にお願いし、最寄り駅まで送ってもらうことで決着がついた。

「僕、トイレ!」

「早く行け」

 履きかけの靴から足を抜き、廊下の奥に駆けて行く日山を、苦笑混じりに見送る。

 お母さんの車は4人乗りの軽自動車だから、神山とはここでお別れになる。

 神山の隣には『先に行っとけよ』と呆れた声で笑う優輝と、にっこり顔の狐のごんちゃん。後ろには3匹の犬。総出で見送ってくれるのが、なんだかおかしい。

「今日はありがとな。そんで、ごちそうっす!」

「ほんと、すごい迷惑かけてごめん。でも、ありがとう」

「いやいい。今度は遊びに来てくれ」

 神山が穏やかに笑った。

 神山は怖い奴だと思ってたけど、今日一日で印象がすごく変わったなと考えていると

『悟のどこが怖いんだよ。悟はいい奴だ』

『感情を表に出すのが苦手なだけよ。悟は良い子よ』

 すかさず、2人のフォローが入る。

 2人の声が聞こえたらしいお母さんが「ぷっ」と吹き出す。

「母さん、何笑ってんだ」

「何でもないわ」

 神山の冷たい声に、お母さんは笑って返事をした。

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