『悟は何も知らないわ』

 横目で伺うと、ごんちゃんは真剣な目で神山を見ている。

『悟には、私を認識する力がない。この家で起こる現象を、悟なりに納得しようとした結果よ』

「何それ」

 思わず声が漏れた。3人の視線が俺に向く。

「俺の説明に、納得出来ないのか?」

 神山の俺を見る目が鋭くなった。

『昔から、悟もいろいろ言われてたみたいよ。自分も他人も納得させられる科学的理由を、一生懸命探していたわ』

『お前、悟の友達なんだろ? 信じてやってよ』

 いつの間にか、優輝が俺の隣に座っていた。優輝は、視線を神山に向けたまま話し続ける。

『悟は本気で信じてるんだ。この家には幽霊なんかいないって。お化け屋敷なんかじゃないって』

 それって、自分の存在を否定されてるってことじゃないか!

 思わず声を上げそうになった。

 神山には分からなくても、俺には分かる。確かにここにいる存在を、勝手にいないことにしていいのかよ。

『いいのよ』

『いいよ、別に。どっちにしろ、悟は俺が分からないんだから』

 不思議と2人には寂しいという感じがない。淡々と事実を語っているだけに見える。

『聖子には、私達の姿が見えるし声も聞こえる。そして、君にもね』

 ごんちゃんは笑って俺を見たのに対し、優輝は『ふん』と向こうを向いた。

「俺が思うのはさあ」

 神山の問いかけに返事をしない俺に代わって、あっくんが口を開く。

「説明に納得するとかしないとか、原因をはっきりさせるとかさせないとかじゃなくて……」

 一瞬、あっくんと目が合った。

「危険はないんだよな?」

 それは神山に聞いているようで、俺に聞いているんだと分かった。

 この家に危険はないのかと。怖くは無いのかと。

「危険な事は絶対にない」

 神山がきっぱりと言った。

「ともはどう思う?」

 あっくんが俺を見る。神山も鋭い視線を俺に向けてくる。

『ごねんねー。睨んでるように見えるけど、悟は睨んでるつもりないのよ』

『悟は目付きが悪いだけだ。それと、あんたがどんな返事をするのか心配なだけだ』

 すかさずフォローが入った。この2人は神山に甘いんだなと、少しおかしくて、自然と頬が緩む。

「まあ正直、神山の説明で全部納得出来たわけじゃないけどさ……」

 神山の目がさらに鋭くなった。すかさず『悟をいじめんなよ!』て、優輝の声がした。

 俺は、優輝を無視して話を続ける。

「分かんなくても、納得出来なくてもいいと思う。日山が言うように、家が潰れたり危険がないなら問題ないしさ。それに……」

 俺は心からの笑顔で神山を見る。


「こんな家初めてで、なんか面白いよ」


 鋭かった神山の目が大きく開かれた。

「確かに! リアルお化け屋敷って感じで面白いよな」

「あっくん、さすがにお化け屋敷はひどくない?」

「そっか! 悪い神山……神山、どうした?」

「あ、いや、その……」

 神山は手で口を覆い、顔を背けた。顔はよく見えないけど、耳が少し赤くなっているのが見える。そして俺の耳には、ごんちゃんと優輝が楽しそうに笑う声が届く。

 神山は口を覆ったまま、少し聞き取り難い声で言った。


「お化け屋敷でも構わないなら……また、勉強しに来い」

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