帰ったら線香をあげよう。入学式以来行っていなかった、お墓参りにも行こう。もっとちゃんと、ばあちゃんにお礼を言わなきゃ。

 そんなことを思いながら部屋に戻ると、中はポルターガイストの嵐だった。


 ドアを開くと、小さな翼竜のぬいぐるみが、目の前を横切った。その後を追うと、テーブルの下から突き出た日山らしき2本の足。その足の上を飛び跳ねるスライムのぬいぐるみ。

 あっくんは、勉強机から飛んでくる本や教科書を捕らえるのに忙しく、神山は、地球儀や時計が飛ばないように押さえていた。窓からは、バサバサと踊るようにはためくカーテンと、がたがたと今にも割れそうな音を出す窓ガラス。

 まるで、大地震が起きているような惨状なのに、ドアの外に立つ俺の足元は、少しも揺れていない。



「ちょっと狐さん! 中のあれ、どういうこと?」

 開けたばかりのドアを閉め、廊下の端にダッシュで移動し、肩に乗る狐を問いつめる。

『ごんちゃんよ』

「そうじゃなくて、部屋の中……」

『ごんちゃん』

 肩に乗ったまま、そっぽを向かれた。

「あの、ごんちゃんさん……」

『ごんちゃん!』

 見た目は狐でも、自分は神様のようなものだと言った。その上、一瞬だけ見せた巨大な姿。俺にも気安く話してくれるけど、まだ少し怖くて、気安く呼ぶのをためらうけど、それが逆に気に入らないようだ。

「あの、ごんちゃん」

『なあに?』

 声音が優しく、しっぽが嬉しそうに揺れている。

「中、すごい騒ぎになってるんですが」

『そうかな?』

「そうですよ! また、あの子のいたずらですよね!」

『あの子って俺のこと?』

 お母さんと話しをしている間全く姿を見せなかった少年が、突然、後ろに現れた。

『俺の名前は優輝だよ。いい加減に覚えろ、う◯こ野郎』

 憮然として言い放つ。

「分かったから、優輝くん。今すぐやめて! あれはやり過ぎだよ」

『あれ、俺じゃないよ』

「えっ?」

『私よ、やってるの』

「へっ?」

 至近距離で、ごんちゃんは楽しそうに歯を見せた。

「なんで、あんな騒ぎを?」

『なんでって、聖子が出かけるから』

「?」

『君と2人きりで話しをするために、聖子は出掛けたふりをしたの。話しが終わって本当に出掛ける時に、また車の音がしたら不自然でしょ?』

 そういえば、車の音がして出掛けたと思ってたのに、まだ出掛けてなかったのが不思議だった。それ以上の出来事に、忘れていたけど。

『音を聞かせるのは簡単。だけど、音を聞かれないようにするのはちょっと難しい。だから、ちょっと騒がしくして気をそらせたの』

「ちょっとじゃねーだろ!」

 思わず、全力でツッコンでしまった。

 言った後に、神様に失礼を言ったと後悔したけど、その神様は全く気に障った様子なく『あれ? やり過ぎだった?』とぺろりと舌を出した。

『悟のお友達、優輝が何しても動じた様子がないから、あのくらいしないと気がそれないと思ったの。ごめんね』

 ごめんねと言いながら全く反省してるように見えないのは、俺の気のせいだろうか?

『ほら。聖子はもう行ったし部屋も静かにしたから、そろそろ戻ったら。話は合わせておいてね』

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