「話が長くなったけど、結論から言うとね」

「はい」

 慌てて目を拭って顔を上げると、神山のお母さんは優しい目で俺を見ていた。

「よろしくお願いされます。違うわね、これからよろしく! かな?」

 にっこりと笑うお母さんの肩には、同じように笑って俺を見る狐がいた。

「困ったことや分からないことがあれば、私に言いなさい。できる限り力になるわ」

「あ……ありがとうございます!」

「お守りの代わりは……ごんちゃんよろしく!」

『適当なのを見繕うけど、少し時間がかかるわよ』

「まあ少しなら、私でも抑えられると思うけど、早めによろしく」

 2人の話の意味が分からず首をかしげていると、お母さんが説明してくれた。

「そのお守りの一番重要な役割は、君の霊力を抑えること。それにより、君を悪いモノに見付からないようにしてきた。だけど、抑え続けるのはそもそも無理なの。君の成長に合わせて、君自身がその力をコントロール出来るようにならないといけない。これからちょっと大変かもしれないけど、サポートするから頑張ってね」

「あ、あの……えっと、ありがとうございます!」

 力がどうとか、ちょっとすごい話になって正直戸惑った。よく分からないながらも、お礼だけはなんとか言った。

「いいのいいの。こういうのは持ちつ持たれつだからね。本当はすぐにでも力を抑えた方がいいんだろうけど、そうすると寂しがる子がいるから、帰る時にね」

 そう言いながら、意味ありげに廊下の方に目をやった。

 言われてみれば、お母さんの肩に乗る白い狐もきれいな毛並みがはっきり分かるほどに見えているし、声もはっきり聞こえる。この特殊な家のせいかもしれないけど、ここまではっきり見えることは、今までなかった。

 この家に気を取られて気付かなかったけど、すでに変化が始まっているのかもしれない。

「じゃあ話も終わったことだし、ピザもらいに行って来るわね」

「あ、すみません。ありがとうございました!」

 今日何度目になるか分からないお礼の言葉を口にすると、お母さんは「どういたしまして」と楽しそうに笑った。

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