『だけど、こいつは悟をいじめたんだ!』

『だけど、この子は悟が連れて来た悟のお客さんよ。お客さんを勝手に追い出すのはダメでしょ』

 狐に怒られ、少年がしゅんとしてうつむく。

「あのさ、何か誤解してるようだけど、俺、神山をいじめてないよ」

 さっきも同じことを言われた。どうやらこの少年は俺のことを誤解しているようだ。この後、神山の母親が帰るまでここに留まらせてもらうためには、この少年の誤解を解かないといけない。俺は、さっきみたいに感情的にならないように気を付けながら、努めて優しく話す。

「俺と神山は友達なんだ。いじめたりなんかしない。それどころか、すごく世話になってて、感謝してるくらいだよ」

『友達なら、悟の言うことを信じるはずだ!』

「えっ?」

『友達だって言うなら、悟の言うことを信じるはずだろ? なんで、信じてやらないんだよ! なんで、うそつきだって決めつけるんだよ!』

 俺は驚きに目を開き、少年を見る。少年は真っ直ぐに俺を睨んで続ける。

『なんで怖がってんだよ! 音がする理由、悟が説明してんだろ? なんでそれを信じてやらないんだよ!』

 だって、その説明が間違ってるのが分かるから……

 理由ならいくらでもある。だけど、言葉は出てこない。

『自分の家を怖がられて、怖くないって説明してんのに信じてくれなくて、それでも友達かよ! それで、どんだけ悟が悲しんでると思ってんだよ!』


 この子は、俺にとってのあっくんだ。


「変な人がいる」「あそこに黒いモヤがある」「あそこ、なんか怖い」

 そう訴えても、誰も信じてくれなかった。そのうち「変なやつ」「うそつき」て言われるようになった。友達と思ってた子から投げつけられた言葉は、幼い心を酷く傷付けた。

「ともはすごいな。すごく目が良いんだな」

 あっくんだけがそう言ってくれた。あっくんだけが信じてくれた。俺はあっくんに、どれだけ救われたか……

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