「ごめん……」
傷付けるつもりはなかったなんて、言い訳が通用するとは思えない。だけど、俺にはそれしか言えなかった。
『ごめんで済んだら警察いらねーよ! 目障りだから、さっさと帰れ!』
『だから、まだ帰らせられないって』
それまで黙っていた狐が、やれやれといった感じで首を振る。仕草が妙に人間くさい。
「俺が悪かったのは認めるよ。だけどね……」
ポケットから巾着袋を取り出すと、少年と目が合うようにしゃがんだ。
「たとえ俺がどんなに悪かったとしても、物を壊すのはダメだ。これは、俺の大事な物なんだからね」
袋の中身を手に出し、ヒビの入った玉を見せながら、噛み砕くように説明する。少年は俺の手をじっと見た後、俺の目を見て言った。
『これ、なんだ?』
「何って、君が壊したんだろ?」
『知らない』
ぶんぶんと首を振る。その顔はとても嘘をついているように見えない。
「いやだって、この家に入った時すごい音がして、多分その時に壊れたはずなんだ。君がやったんじゃないのか?」
『知らない。これ何?』
『優輝には、そんなこと出来ないわ。せいぜい音を出したりする程度。悟の持ち物なら多少動かすことも出来るけど、他人の物には触れることも出来ない』
「そんな、じゃあ誰が……」
狐に問いかけようとすると、狐は立ち上がり視線を後ろに向けた。
『聖子が帰って来た』
言われて意識を外に向けると、シャッターが動く音と車のエンジン音が聞こえた。
俺達に背を向けたまま動かない狐の様子が気になった。真っ直ぐに廊下中ほどのドアに目を向け、ピンと立てた耳も視線の先に向けている。一見、主人の帰りを心待ちにしているペットのようにも見えるけど、その雰囲気は、何かを警戒しているようにも見えた。
『また、変なものを持って来て』
鼻にしわを寄せ吐き捨てるように言うと、狐の雰囲気が一変した。
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