『優輝をかばってくれてありがとう』
狐が俺を見上げて言った。
真っ白な体はまるで銀のように薄く光り、俺を見つめる金色の目は優しげに細められている。そして、この小さな体から感じる信じられないほどの迫力。なのに、恐怖は一切感じない。その美しい見た目と相まって、俺は頭に浮かんだ言葉を口にした。
「神様……?」
『正確には違うけど、まあ似たようなものかしらね』
白い狐は、金色が見えなくなるほど目を細め、その尖った口を少し開いて笑った。
『ごんちゃん遅い!』
少年が、俺の後ろから飛び出し狐に抱きついた。
『いろいろ忙しかったのよ』
『俺、もう少しであのばあさんにさらわれるとこだった!』
『この人に助けてもらったでしょ。ちゃんとお礼を言いなさい』
まるで親子の会話のようだ。呆気にとられて見ていると、少年は狐から手を離し仁王立ちになると、睨むように俺を見て『助けてくれてありがとう!』と言った。気になることは多々あるけど、きちんとお礼を言えたところは評価しよう。年長者としての言葉を返そうと口を開きかけると
『だから、さっさと帰れ!』
また帰れと言われてしまった。
『まだダメよ』
また留められた。なんなんだよこの状況。意味が分からない。
『聖子が帰るまで、この家から出てはダメよ。もう少し待ちなさい』
「せいこ?」
『悟の母親よ』
知らない人の名前に思わず問いかけると、狐は答えてくれた。悟って誰だ? と少し考え、神山のことだと思い出す。
なんで、神山の母親が帰るまで待たないといけないのか分からない。神山は、母親が帰るまでならいいと言っていた。母親が帰る前に俺達も帰らなきゃいけないと思っていたのに、どういうことだろう。
『あなたが危ないからよ』
俺の考えが聞こえたかのように、狐は答えてくれた。だけど、その答えの意味も分からない。
『そんな状態でこの家から出たら、何か連れて帰っちゃうわよ』
「えっ!」
『違うわね、連れて行かれる方かしら。さっきも連れて行かれそうになってたしね』
狐がからからと、楽しそうに笑う。いや、冗談でも笑えないんですけど。
『冗談じゃなくて本当よ。今のあなた、すごく無防備。この家にいる限りは守ってあげるけど、外に出たら知らないわ』
「…………」
外の状況を思い出して声も出ない。淀んだ空気には、何か悪いものが含まれている気がする。その悪いものを俺が連れて帰ってしまうのか、さっきみたいに連れて行かれそうになるのか。どっちにしても最悪だ。狐の言うことが本当だとしたら、俺はこの家から一生出られない。
『それは大丈夫、聖子がどうにかしてくれるわ。だから、聖子が帰るまで家にいなきゃダメよ』
最後の言葉は、隣にいる少年に向かって言っていた。少年は狐に言われても、まだ不服そうに俺を睨んでいる。
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