小学校低学年くらいの利発そうな少年。短く刈り揃えられた髪、太く凛々しい眉を吊り上げ、大きな目で俺を睨んでいる。一見すると、生きているのかと思うほどはっきり見えるその少年は、この暑いのに厚手のジャンパーのファスナーを首元まで上げて着ていた。
『さっさと帰れ!』
パシッ
ピシッ
ビシッ
少年の叫びに合わせるように、ラップ音が部屋に響く。
俺は少年に気圧され、ベッドの方に後ずさる。すぐ後ろに霊道があるのを思い出し、下がるのを止めた。近付くと、霊道から微かな獣臭を感じた。
この霊道は人が通る道じゃないんだ。じゃああの犬達は、この霊道を通ってここに来たのかな?
なんて現実逃避をしていると、寝そべっていた犬達がゆっくりと起き上がり、警戒するように俺を見ながら、神山の横に移動した。
『この家から出て行け!』
少年の声に合わせるように、犬達も唸り始める。
なんで俺が? なんで俺だけ?
敵意を向けられる理由が分からない。助けを求めて少年の後ろの神山達に視線を送るが、不自然なほどこっちを見ずに、本の話で盛り上がっている。
ばあちゃん助けて!
もうすがる先は、ばあちゃんしかない。俺はポケットに手を入れ、巾着袋に触れた。いつもと違う感触に、慌てて巾着袋を取り出す。数珠を持ち歩いていたら変に思われるから、人前で取り出すことは決してしない。だけど、確認せずにいられなかった。
着物生地で作られた巾着袋の中に手を入れ、中の小さな数珠を引っ張り出すと、ばらばらと音を立てて転がり落ちた。慌てて落ちた玉を拾う。綺麗な乳白色だった玉が薄くにごり、中にはヒビまで入っている物もある。
この家に入った時の、腰に走った音と衝撃を思い出す。
危険だとか怖いだとかは、頭から消し飛んだ。ただ、強い怒りが頭を支配した。
お前がこれをやったのか!
ばあちゃんがくれた数珠。ばあちゃんの形見。いつも俺を守ってくれた大事なお守り。それを壊された。この一見、無害そうな少年に。
強く睨むと、少年はびくりと肩を震わせた。犬達は警戒するように俺を見ながら、神山の足元にくっ付くように移動する。まるで、俺から神山を守ろうとするように。
俺が神山に何かするわけがない。だけど、この少年は別だ。
じりっと一歩踏み出すと、それを合図に少年はドアを擦り抜けて部屋を飛び出した。
「とも。そんな所でどうした?」
少年が出て行くのと同時に、あっくん達が俺を見た。
「神山、トイレ貸して」
「場所分かるか?」
返事もせずに部屋を飛び出し、少年を追う。
少年を捕まえてどうするのかとか、そもそも捕まえられるのかなんて考えていない。その時の俺は、少年を追わずにいられなかった。
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