部屋にいる間鳴りを潜めていたラップ音は、俺が廊下に足を下ろした途端鳴り出し、階段を上る頃に止んだ。
昔の古い階段は、踏み面が狭く少し急だった。踏み外す訳はないと思いながら、念のために手すりを持って上る。上りきる少し手前で何かに足首を掴まれ、転びそうになった。手すりを持っていなかったら、落ちて怪我をしていたかもと考えると、ぞっとする。ここまでは直接危害を加えようとはしなかったから、危険はないと考えていたけれど、その考えを改めないといけない。
2階廊下に立って気配を探る。油断なく辺りを見回していると、すぐ脇を小さな体が走り抜けた。その背中を目で追うと、あっくんに続くようにドアの影に消えた。慌てて俺も後を追うが、ドアは目の前で閉じられ、開かない。
「ひろーい! なのに物少なー!」
「うわ、めっちゃ片付いてる」
「そうか?」
中から3人の声がする。家に続いて、神山の部屋からも追い出されてしまった。
「やっぱ、俺先に帰った方がいいのかなぁ」
理由は分からないけれど、あの子供が標的にしているのは俺だけだ。俺が帰れば、おかしな現象も鳴りを潜めるかもしれない。
「あの……」
そう考えてドアの外から声をかけようとした時
『帰ってはダメよ』
頭の中に声がした。
『今は外に出てはダメ。もう少し待ちなさい』
それは落ち着いた女の人の声。あの子供とは違う。
この家にいる霊って、あの子供だけじゃないのか?
追い出そうとする子供と、留めようとする女の人。真逆の対応にどうすればいいのか頭を抱えていると、ドアが開いた。
「山口。部屋が分からなくなったか?」
「えっと……なんかドアが開かなくて……」
「悪い。古い家で歪みがあるんだ。時々開きにくくなる」
「あっそ……」
神山は、自分がスムーズにドアを開けたことを不思議に思わないようだ。
きっとここにも何かある。俺は気を引き締めて部屋に入る。
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