「神山。誰かが襖を叩いてないか?」

 神山がきっちりと閉めた襖を、誰かが叩く音がする。話をしていたら気付かないような小さな音を、あっくんは聞き逃さない。

「俺達以外、誰もいない」

「それじゃあ、あの襖を叩く音は……」

 今度は家鳴りとは言えない。今度こそ不可解な現象だと認めるかと思いきや

「あれは風だ」

「「「風?」」」

 意外な返事に、思わず揃って聞き返す。

「古い家だからな。すきま風が窓や襖を叩くことがある」

「すきま風?」

「そうなのか。古い家は大変だな」

 この説明にあっくんは少し顔をしかめ、日山は神山を同情するように言った。

「ああ。機密性が悪いから、冬は特に寒い」

「そっかー。でも、夏は涼しそうでいいな。この家に入った時も、少しひんやりしたぞ」


 違う! 家のせいじゃないから! ひんやりの原因は、絶対別にあるから!


 と叫びたいのをグラスを握って必死に耐える。落ち着くために、神山が入れてくれたお茶を飲む。冷たくて美味しい。

 お茶を飲みながらくつろいでいると、今度は廊下から音がした。

「なあ、廊下を誰かが走ってないか?」

「そうか? 気のせいじゃないか?」

 あっくんが再び尋ねる。日山は聞こえなかったようだが、俺にも聞こえた。

 神山はちょっと首を傾げて「また出たか」と言った。

「出たって何が?」

 今度こそ幽霊の仕業だと認めるのかと思いきや

「多分、ねずみか何か動物の足音だ。時々入り込んで、屋根裏や家の隙間を走る」

 神山は動物の足音だと言い切った。

 俺が聞いた感じ、小動物が走るような音じゃない。体重の軽い、子供が走るような音だ。さっき覗いていた子供の霊の足音だと思いながら、何も言わなかった。

 て言うか、走ってたのは、屋根裏じゃなくてそこの廊下だよ!

「いや、でもさぁ……廊下、走ってなかったか?」

 あっくんも同じように思ったようだ。

「家が古いせいか、音はよく反響する。廊下を走っているように聞こえるが、廊下じゃない」

「あっそ」

 あっくんは、神山の説明に納得したのかしないのかよく分からない複雑な顔をしながら、それ以上は聞かなかった。

「また、駆除してもらわないと」

 神山は、面倒くさそうに呟く。

 ここまで家の中で様々な現象が起こりながらも、決して怪奇現象とは認めない。これは何かを見極めても、神山に分かってもらうのは難しそうだ。

「山口、どうした?」

「大丈夫か?」

「とも、頭が痛いのか?」

 この後のことを考えると、本当に頭が痛くなる。

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