ピシッ

 パキッ

 パシッ

 ピキッ


「家鳴りって、こんなに続けてなるのか?」

「そうだな」

 日山の質問に神山が答える。

「いつ鳴るとかあるのか?」

「ない。複合的な原因だろう」

 あっくんの質問にもあっさりと答える。俺だけが何も聞けない。

 俺が上がり口に足を置いた途端、壁から音がした。日山もあっくんも周りを見回すが、神山が「家鳴りだ。気にするな」と言うので、その言葉に従った。

 お金を出し合って買った手土産をあっくんが渡している間もラップ音はうるさいほど鳴り続けているが、みんなは聞こえていないかのように無視している。気になりながらも、俺も無視を決め込んだ。

「この部屋で待っててくれ。茶を入れてくる」

 案内されたのは、玄関近くの和室。

 電気は付いていないのに、奥の障子から日差しが差し込んでいてとても明るい。真ん中には長机が置かれ、床の間には掛け軸と大きな花瓶。反対側は全面が襖。仕切られた襖を開くと大広間になるようだ。

「うおー! すげー!」

 日山は昔ながらの和室が珍しいらしく、走って部屋を一周した。

「勝手に触るなよ」

「見てるだけ」

 床の間の掛け軸や花瓶を珍しそうに見ている日山に、あっくんが注意する。触ってうっかり壊したりしたら大変だ。

 警戒しながらゆっくりと部屋に入り、辺りを見回す。部屋に入った途端にラップ音は止んだけれど、安心は出来ない。

 しばらく部屋を観察して、おかしな気配を感じないことに少し安心する。位置的に障子の向こうが庭だ。部屋からの景色を見たくて障子をそっと開き、思わず勢いよく閉めてしまった。

「とも、どした?」

「何かあったか?」

 気持ちを落ち着かせるため、一度大きく深呼吸をして振り返る。

「窓にでっかい虫がいて……」

 頬が引きつっているのが自分でも分かる。虫嫌いなことをあっくんは知っているから、変に思われないだろう。


 窓に真っ赤な手形が付いていたとは言えない。


 変なモノをよく見る俺でも、あそこまではっきりと見たのは初めてだ。正直びびった。

「でかい虫? どんなだ?」

 日山が障子を開けようとする。

「おい、ちょっと日山」

「害虫だったら駆除したほうがいいだろ?」

 俺が止める間もなく、障子は勢いよく開かれた。

「虫、いないなぁ…」

 日山が窓の外を見回して、残念そうに言った。綺麗な窓には汚れ1つなく、赤い手形は跡形もなく消えていた。

「すげー! 広くて綺麗だなー!」

 窓から外に目をやると、手入れの行き届いた日本庭園が見える。窓からの眺めも良くて、俺達には勿体ないくらいの部屋だ。

 家の中は外よりずっと空気がいいし、特にこの部屋はおかしな気配もない。ここが一番安全なのかもと、部屋に視線を戻し、驚いて後ずさる。

 入り口の襖から、こっちを覗く目があった。

 位置が低い。見ているのは小さい子供か、屈んでいるのか。

 神山は親は不在と言っていたけど、兄弟の有無は聞いていない。もしかしたら、神山の弟か妹かも。

「あの……」

「待たせた」

 声をかけようとした瞬間、勢いよく襖が開いてグラスの乗った盆を持つ神山が現れた。

「どうした?」

「あのさ……」

 頭の隅によぎる嫌な予感を無視して、尋ねる。

「神山、兄弟いるか?」

「いる」

 神山の返事にほっと安堵の息を吐く。やっぱり、さっき覗いていたのは神山の弟か妹だ。襖を開いた瞬間いなくなったように見えたのは、上手く隠れたからだろう。

「3つ上の大学生の兄が。地方で一人暮らししてる……山口、大丈夫か?」

 思わず頭を抱えて座り込んでしまった。


 やっぱり、さっき覗いてたのは、子供の幽霊なのか。

 本当は、そうかもって思ったよ! 見た瞬間、生きてない感じがしたよ! でもさ、そっちが勘違いだって思いたかったんだよ!

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