最初に感じた寒気は日を追うごとに感じなくなり、気のせいだったのかと思うようになった、勉強会5日目の金曜日。

「なあ、明日はどうするんだ?」

 英和辞典をめくる手を止め、日山が誰ともなく聞いてきた。

 明日の授業はないから、学校には来ない。当然、図書室に集まることも出来ない。

「家族サービスかな」

「どこのお父さんの台詞だ!」

 あっくんに日山が大声でツッコミ、その日山をじろりと睨む司書さん。

「家でのんびり」

「違うだろ!」

「日山、声デカい」

 神山が大声を出す日山を注意すると、日山は慌てて手で口を押さえた。

「明日もどっかに集まって、勉強しようよ」

 口から手を離すと、みんなの顔を見ながら抑えた声で話す。

「どこかって、どこに?」

 みんなの視線が日山に集まる。

「誰かの家……」

「市立図書館は?」

「土日は混むな」

「ファミレスかファーストフードか? ちょっと金かかるけど、飯食えるし……」

「家がいい!」

「日山うるさい。追い出すぞ」

「んぐっ!」

 神山の注意に、再び口を押さえる。

 幸い、司書さんはいなかったけど、勉強する先輩達が冷たい目で俺達を見ていた。先輩達に、ペコリと頭を下げる。

「誰かの家に集まるって、誰ん家に? 俺ん家は無理だよ。弟妹達が邪魔して、勉強どころじゃなくなる」

 あっくんは4人兄弟妹の一番上だから、休日の家族サービスというのもあながち冗談じゃない。

「日山ん家は?」

 言い出した本人が家に招きたいというのが筋だろうけど、日山に限ってそうとも言えない。

「僕の部屋に招待したいのは山々なのだが、物が多すぎて入るのが精一杯だと思うぞ。それでも良ければ、僕の科学実験コレクションを……」

「俺の部屋は狭いからな。リビングは親が使ってるし……」

 長く脱線しそうな日山の話を、強制的に終わらせる。

「ともの部屋でも、3人なら…………冗談だ、日山」

 涙目の日山に睨まれ、あっくんが言葉を切った。

「あの……」

 神山が、少し遠慮がちに言う。

「俺ん家……来るか?」

「土曜に大勢で押しかけて、大丈夫か?」

 即答しそうな日山を片手で制して、あっくんが尋ねる。

「父親は仕事。母親も、夕方までいない。それまでなら」

 いいと言いながら、何か迷っているように見える。あっくんもそれが分かったからか、再度問いかける。

「本当に、いいのか?」

「夕方までなら構わない。だが、遠いぞ」

 徒歩と電車で1時間半ほどかかるらしい。神山が遠慮していた理由が分かった俺達は「明日はよろしく」と笑顔で返した。

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