「だから、こうなる」

「なるほど! よく分かった」

「次のはこれの応用だから、自分で出来るだろ」

「おっし、まかせろ!」

 あっくんの返事を聞くと、神山は浮かた腰を戻して、問題を解くのを見守る。

「かーみーやーまー。これ何て読むんだ? 意味は? 分からーん」

 神山の隣に座る日山が、神山の袖を引く。

「少しは自分で考えろ」

 神山は、日山を見ようともしない。

「えー! 明日までに終わらーん。ノート見せてー」

「はい」

 ノートの代わりに、英和辞典を渡す。

「神山、冷たーい。見せて見せてー」

「見せない」

 日山に背中を向け、それ以上は何を言われても答えない。

「図書室では静かに」

 史書さんに怒られてしゅんとした日山が、しぶしぶ英和辞典を開く。



 あれから、勉強をするためにバレー部部室に行った。運動部部室は、狭い割に物が多く、4人で勉強するスペースがない上に、換気も悪い。

 部屋に入った瞬間、神山は「臭い。暑い。図書室に行く」と言って、勝手に図書室に向かおうとした。

 慌てて神山を引き留め、体育館にいる武内先生の所に連れて行き、勉強場所の変更を願い出て、今に至る。



 当初、数学を教えてくれる予定だった日山は、遅れている英語の課題をして、あっくんの数学は、神山が丁寧に教えている。あっくんと日山の面倒を見ながら、神山は、自身の予習をする。

 俺、なんでここにいるんだろう……

 神山から感じた寒気は、今はない。勉強を始めた当初、神山が俺に視線を寄越す度ひんやりとした風を感じたが、無視し続けていたら何も感じなくなった。神山は、意外に真面目に勉強するあっくんと、時々絡んでくる日山をかわすのに忙しい。

 何もないとはいえ、これ以上神山の近くにいるのも不安だから先に帰りたいけど、それも言えない。仕方がなく、予習をする。

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