「喜べ諸君。救世主を連れて来たぞ」

 終業のチャイムが鳴ると同時に、後ろのドアが開いて日山が入って来た。

「日山、もう少し待ちなさい」

「……はい」

 先生に注意され、静かにドアを閉めて出て行く。



「喜べ山口。救世主を連れて来たぞ!」

 前のドアから先生が出て行くと同時に、日山が後ろのドアから入って、俺の所に来る。

 クラスメートは日山を温かく無視しながら、笑顔で俺に別れを告げて行く。

「……救世主って、何?」

 日山に尋ねると、何を聞かれているのか分からないといった顔をして「英語に決まっているだろう」と言った。

「理数だけでなく英語までも苦手な山口達の為に、救世主を見付けてきてやったんだぞ。感謝しろ」

 日山が薄い胸を張る。

「勘違いしてるようだけど、俺、英語も数学も得意じゃないだけで、赤点取るほど悪くもないよ」

「………………」

「ちょっと大変だけどあっくんは俺が面倒見るから、日山はその救世主に教えてもらえば?」

「∨〇∴◇⊥●÷≧●〜〜〜!!」

「うわっ!」

 ちょっと冷たく言ったら、訳の分からないことを言いながら泣きついてきた。

「とも! 小さい子をいじめちゃだめだろ」

 いつの間にか来たあっくんが、少し怒った顔で俺を見下ろす。

「えっ? 俺? 俺が悪いの?」

 突然やって来て、偉そうに勝手なことを言う日山じゃなくて?

「大丈夫だから、日山泣くな」

 あっくんが腰を屈め、小さい子をあやすように日山の頭を撫でる。

「ともはいい奴だが説明が下手でよく分からんから、数学は日山が教えてくれ」

「悪かったな! 説明が下手で!」

「そうだろうそうだろう。理数は僕が教えてあげよう」

 あっさり立ち直った日山が、再び胸を張る。こいつは、威張るか泣くかしかしないのか?

「それで? 誰が英語教えてくれるんだ?」

「おおそうだ! 教室で待ってるから来てくれ」

『連れて来たんじゃなかったのかよ』とツッコムのはもうやめた。

 俺とあっくんは鞄を持つと、日山に続いて隣の教室に向かった。

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