「ご、ごめん。先に撮る?」

「いや、後でいい」

「そう、ごめんね」

 なんとなく怖くて、つい謝ってしまう。

 俺ばっかりカメラを使わせてもらう訳にはいかないから、手近な花を撮ることにした。

「ちょっと、これ……」

「すみません。また失敗して……」

 撮ったばかりの写真を見て、副部長の顔色が変わった。色とりどりのパンジーを撮った写真に、薄い影が被さっている。

「失敗っていうか……これ、おかしくない?」

 写真に白い筋が入ることは、よくあるんだろう。そっちは変に思われなかったのに、画面の3分の1ほどを覆う影は、見過ごされなかった。

「お、おかしいですか? そういえば、撮る時に蝶が横切ったような……」

「蝶なんか飛んでなかった」

 副部長が写真を凝視しながら言う。これはまずい。

「じゃあ多分、他の虫……」

「だってこれ、まるで人の顔みたい……」

 俺が恐れていたことを副部長が言った。

 確証はないけど、さっきの白い筋も、何か霊的なモノだと思う。そして、この影も。どうやって誤魔化そうか考えていると

「そうですか?」

 突然、背の高い男子が、口を挟んできた。

「そう見えるのは、ただのシミュラクラ現象ですよ」

「しみゅ……何?」

「影の中に3つの丸が見える。それで人の顔のように見えた」

「いやだって、そもそもなんで影が写り込んだの?」

「シャッターを切る時に、たまたま何かが横切ったんでしょう」

 背の高い男子は、何故か俺の代わりに誤魔化してくれる。その説明は俺よりも説得力があって、結局、副部長も心霊写真と疑うのをやめ、その写真も消してくれた。

「どうする? また撮り直す?」

「いえ、俺は……」

「そう。じゃあ次は君ね」

「はい」

 副部長は、背の高い男子にカメラを渡し、説明する。その様子を見ながら考える。副部長は、また後で俺に撮らせるつもりだ。結局、俺の撮った写真は、全部消してしまったから。

「すみません。俺、用事があるんでこれで……」

 話している途中で悪いと思いながらも、我慢出来なかった。

「えっ?もう帰るの?」

「はい。すみません……」

「そう。残念だけど、また来てね」

 副部長は優しく笑ってくれた。背の高い男子も、無表情のまま少し頭を下げてくれたから、俺も頭を下げ返す。一緒に来た女子達もこっちに戻ってくるみたいだけど、俺は振り返らずに校舎に向かった。

 今日は、何回撮っても変なモノが写るだろう。もしかしたら、今日だけじゃないかもしれない。写真部の活動には、他の部活の写真も撮ると書いてあった。もし、他の部の写真を撮って、それに変なモノが写ったら。そう考えると、とても写真部に入ることは出来ない。

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