「いらっしゃーい。きれいに撮ってねー。興味があったら、入部してねー。特に男子!」
「ちょっと、今は写真部の体験!」
「まあまあ、硬いこと言わないで。兼部も大歓迎だからねー」
ポニーテールの先輩が、副部長と笑い合っている。仲が良さそうだ。
たくさんの花が植えられているプランターの向こうには畑があり、鍬を持った男子とスコップを持った女子数人が、こっちを見て手を振ってくれた。見た感じ、アットホームな雰囲気で悪くないとは思うけど、園芸部に入りたいと思えない。
畑に、足がたくさん生えてる!
足の形は大人のそれなのに、大きさは赤ちゃんくらいしかない。遠くから見ると、茶色い作物のように見えるけど、時々動く指先が、畑に埋まった人を連想させて、とても嫌な気分になる。
危険な感じはしないけど、見た目がすごく気持ち悪い。
明日以降、お守りのおかげで見えなくなったとしても、この畑に乱立する足の姿がここにあるのかと考えたら、とても近寄りたくない。
「じゃあ早速、撮ってみる?」
畑から目をそらしプランターの花を眺めていると、副部長に声をかけられた。
「えっ? いいんですか?」
「あ、うん。一緒に来た子達が、園芸部に捕まってるから」
女子2人は鍬男子と話し、背の高い男子も、3人のスコップ女子に捕まっていた。
「撮りたい物を決めて。花でもいいし、畑にいる人を撮りたいなら、ズームリングを回して……」
「いえ、花を……」
足が写ったら大変だと思いながら、再び畑に目を向け、俺は固まった。
足が、伸びている!
膝くらいの高さしかなかった足が、鍬男子の腰の高さまで伸びていた。その上、指先しか動いていなかった足先が、足首を捻りながらぐるぐると回っている。ねじ切れるんじゃないかと思うほどねじれると、今度は勢いよく逆回転を始め、そのままスポンと畑から抜け出し、竹とんぼのように高く飛んで消えた。
「大丈夫?どうかした?」
「えっ?」
次々と飛んで行く、足。あまりの光景に呆然としていると、副部長に声をかけられた。
「あ! えーっと……そう、空を撮ってもいいですか?」
ぼけっとしていた理由を、なんとか誤魔化す。
「なかなか難易度高いこと言うわね」
やべ、難易度高かったのか。
「まあ、撮りたい物を撮る方が楽しいからね。いいわよ」
副部長に教えてもらいながら、大きな雲の写真を撮る。デジカメのいいところは、撮ってすぐ見られることだ。早速撮ったばかりの写真を表示してもらう。
「あれ?」
1枚目、明らかに雲とは違う白い筋が入っていた。次も別角度の白い筋。さらにその次は、半分ほど白くなっていた。
「なんでこんな風になっちゃったんだろう……」
「な、なんででしょうね……あの副部長、撮り直していいですか?」
「いいわよ」
「やっぱ花撮ります! それでその、失敗したやつ、消してもらえますか?」
「うん、了解……あら、いつの間に戻って来たの?」
「さっき」
いつも間にか、背の高い男子が後ろに立っていた。俺が撮っていたのを見ていたらしい。
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