第12話 少し前のお話
「本当に止めなくていいんですか?」
コンビニで高校生が喧嘩しているらしい。
相手は武器を持っており、危険な状況だ。
正一と雅樹は人ごみから離れたところで様子を見ていた。
店の前には人だかりができていたが、あまり盛り上がってはいない。
真理の会やランサーズのせいで感覚がマヒしていたが、これが普通の反応だ。
駆除業者の存在がどれだけ大きかったか、改めて思い知らされる。
『アイツら、仮面をつけてないからね。真理の会は絡んでいない』
恵からの指示を仰ぐため、連絡を入れた。
駆除する対象がいないため、業者の出番はない。
怪人がいないだけで何もできなくなってしまう。
「けど、ケガ人が出てるんですよ。
手遅れにならないうちに止めたほうがいいと思うんですが」
『怪人もいないのに、アタシらが行くわけにはいかないでしょ。
とにかく、何もしないでいいから。分かった?』
通話は切れた。
その場で起きた以上、黙って見ているわけにもいかない。
「ちょっと止めてくる」
「……何もするなって言われたんじゃなかったのか?」
「何もしないよりはマシだろう」
新しく買ったマスクをカバンから取り出す。
クトゥルフ神話に出てきそうな不気味なデザインに一目ぼれした。
内容もほとんど知らないが、威嚇程度にはなるだろう。
「それ、マジで買ったのか」
「般若のお面は被っている人が多いしな。
これなら誰も買わないと思ったんだ」
手に入れやすいのか、身に着けている人が思っている以上にいた。
あまり面白味を感じなかったから、思い切って購入してしまった。
ぜいたくな昼食が堪能できるくらいの価格だった。
「前から思ってたけどさあ、正一君って結構変わってるよな」
「生まれて初めて言われたけど」
「そんなの口に出さなかっただけだよ。
怪人症候群になってから本性が出てきたわけでもないだろうしさ」
「本性とか言うな。俺は真面目なんだよ」
「分かってるよ。桃園さんには黙ってるから、早く行ってこい」
片手をあげて、人ごみを割って入った。
視線を感じた。カメラが回っている。
警棒を持っている男子高校生の背後に回る。
それこそどこで買ったのか、知りたいものだ。
「消えろこのタコ!」
武器を持っている方の手を掴み上げる。
マスクのデザインを見て、周囲は茫然としている。さすがに発狂しないらしい。
「うっわ、何あのマスク。あんなんどこで売ってるの?」
聞き覚えのある声がして、そちらを見た。
呆れたような表情を浮かべている目白結衣がいた。
隣に仁美もいて、顔に気持ち悪いと書いてあった。
「アンタ、邪魔すんじゃねえよ。真理の会なら分かるだろ?
コイツらは全員怪人だ。今すぐぶっ殺さなきゃならねえ」
「分からないな、俺はランサーズだ。
真理の会と同じにしてもらっては困る」
警棒を持っている手を背中に回し、ひねり上げる。
喧嘩の相手は秋羽場ライだ。
経緯は分からないが、なぜか納得してしまった。
「大丈夫か?」
「あー、はい。ありがとうございます」
「気をつけたほうがいい。
怒りで我を失っている奴は何をするか分かったもんじゃない」
喧嘩の仲裁なんて何年ぶりだろうか。
とりあえず、大人しくさせなければならない。
痛そうな声をあげている。
「てか、どこで買ったんですか?」
「ネット通販。探せばどこにでもあるよ」
インターネットの海はどこまでも広がっている。
海外で売っている商品も簡単に手に入る時代だ。
「ちなみにですけど、それを選んだ理由は?」
「おもしろそうだったから」
「仮装パーティか何かと勘違いしてませんか?」
ライがぽつりとつぶやいた。
喧嘩の空気と合わず、明らかに浮いている。
警察はまだ来ないのだろうか。
「君、意外と陽気だったんだねえ。
その気概は高貴でフェイバリットかも?」
黒猫がパトカーを連れて現れた。
カメラが一斉にそちらへ向き、黄色い声が上がる。
すっかり名声を得て、芸能人のようになっている。
「顔を見せただけでこの盛り上がりですか。
さすが、厚底ブーツをはいた黒猫ですね」
「そろそろ、放してあげたら?
攻撃の意思はなくなったみたいだし、もういいんじゃないかな」
自分の話は無視された。腕も悲鳴を上げている頃だろう。
意気消沈し、すっかり黙ってしまっている。
「ほら、警察も来たし。さっさと引き渡そう」
警官が高校生を連れて行き、胡乱気な表情で自分を見た。
関わりたくないのはこちらも同じだ。
「あの、詳しいお話を聞いてもよろしいですか」
渋々といった表情で手帳を取り出す。
秋羽場ライも話を聞かされていた。
男子高校生同士の喧嘩に正一が仲裁のつもりで間に入った。
事の発端はライが渋谷を煽ったところから始まる。
本人は冗談のつもりで言ったが、受け止めてもらえなかった。
その後は渋谷がライを殴り飛ばし、武器で暴れまわっていた。
笑えない時点で冗談は冗談でなくなる。
その境目を分かっていない人が本当に多い。
「ちょっと言いすぎちゃいましたかね。
少し前からあやしいなーって思ってたんで、聞いてみただけなんですけど」
殴られた本人はへらへらと笑っている始末だ。
反省の色どころか、自分に原因があることを分かっていないようにも思えた。
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