第13話 似た者同士のその後
高校生同士の喧嘩に真理の会が顔を突っ込んでしまったことについて、世間の評価は大きく二つに分かれた。
それは、例え怪人に見えていても人を助けようとする勇気や行動への称賛だ。
それは、無抵抗であっても目的のためなら手段を選ばないことへの批判だ。
主に犯罪行為を見世物として扱うことに反感を持っていた者などを中心に、ネット上で火をつけて暴れまわっていた。
業者もボランティア活動に留まっていたのがよかったのかもしれない。
公式アカウントなるものが存在していたら、あの行き過ぎた行為について誠意のある説明を求められていただろう。
真理の会は有事の際の判断は個人に委ねているため、コメントは差し控えたいと述べていた。面倒ごとは自分たちでどうにかしろということらしい。
一部の信者の間で人間同士の争いを止めることについて議論が起きたようだが、平信者同士の勝手な論争だ。あの場にいた正一が首を突っ込めば、余計混乱が起きる。
般若のお面をリュックにしまう。
今はタコのマスクを含め、二つ持っていることになる。
あれだけ目立ってしまった以上、タコを装着することはないかもしれない。
「マスクつけてて本当によかったな。
素顔で仲裁入るよりも効果あったんじゃないか?」
「……これに懲りてくれればいいんだけどな」
喧嘩相手は怪人症候群にかかっていた。
目的は分からないが、秋羽場ライは晒し上げるつもりでいた。
そりゃ殴られて当然だろ。同情の余地はない。
後日、案の定、桃園恵に呼び出された。
あのまま待っていたら、恵が介入することもあり得たのだろうか。
今となっては確かめようのないことだ。
不機嫌そうな表情を隠そうともしない。
部屋の空気が怒りで満たされている。
正一の顔を見るなり、椅子を蹴り上げた。
「アンタねえ、自分から指示聞いておいて無視するっていい度胸じゃない。
ケンカ売ってんの?」
「値打ちのつかない物は買わないはずでは?」
「アンタが! 叩き売ってんの! 安売りしてんの!
その場にいろってアタシ言ったよね?」
「言いましたね」
「駆除対象がいないから、業者の出番じゃないってのも分かってたよね?」
すべてを理解した上でやった。その後の評判がどうなるかは頭になかった。
目の前で喧嘩しているのに、止めない理由がない。
「どんな理由であれ困っているみたいだったので、助けに入っただけです」
そこだけは譲れない。後先考えずに行動してしまう自分の姿が、この前の仁美と似ている気がした。重い沈黙が降りる。
「桃園さん、そのへんにしませんか。助かったのは事実なんですから。
あそこで止めに入ってくれなかったら、どうなっていたことか。
ありがとうございました」
ライが改めて頭を下げた。
その場にいた警官からも厳重注意を受け、多少はへこんでいた。
軽そうな言動しか見ていなかったからか、少し意外だった。
「あの状況を見る限り、余計なことしか言わなかったんでしょ?
友だちを吊し上げようとか、変なこと考えてたんじゃないでしょうね」
「……怪人症候群かどうか、確かめようとしただけですよ。
いろいろと怪しいところがあったものですから」
「そういうところだって言ってんの。
真理の会からも目をつけられてんだから、煽るような真似しないでくれない?」
腹立たし気にため息をついた。
業者たちののまとめ役として、いろいろと苦労しているのだろうか。
「こちらこそ、すみませんでした。勝手に行動して」
「やっちゃったもんはしょうがないから、次気をつけること。
喧嘩に割り込むときは真理の会かどうか確認して。
マスクつけていなかったら、素顔さらす。それでいい?」
「分かりました」
自信がないと答える勇気はなかった。
同じ場面に出くわした場合、何も考えられなくなってしまうのは目に見えていた。
***
「あのタコの人、もしかして正一だったりするの?」
仁美の様子を見に行った際、真っ先に言われてしまった。
野次馬の中から彼女を最初に見つけ、隣に同級生がいることに気づいた。
秋羽場ライの言っていたことが嘘ではなかったことを認めた瞬間でもあった。
「何でそう思った?」
「昔のことだから覚えてないだろうけどさ。
喧嘩を止めるときの正一とまったく同じ動きをしてたんだもん。
私の話も聞かずに相手の後ろに回って腕をねじってさ。
相手の子を絶対に泣かせちゃうし、何回怒られたかも分からないよ」
「そうだったか?」
「結局、誰が悪いのか分からなくなっちゃってさ。大変だったんだから」
その時のことを思い出したのか、自然と笑みがこぼれていた。
相手が黙ってくれればそれでいいと思っていたが、確かに延々と怒られていた気がする。あまり成長していないというか、肝心なところで学習していない。
今も仁美は怪人にしか見えない。
気味の悪い顔は慣れればどうにかなると思ったが、そうもいかないようだ。
「その姿をずっと見ていたから、カッコつけるようなダサい真似ができたのかもね」
「あの時の仁美はカッコよかったよ。ダサいとか言うな」
「そう? なら、いいんだけど」
どこか嬉しそうに笑った。
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