第13話 悲しい過去には触れないで!

 洞窟から出れた。


「あー、久々の外の空気は美味しいですね!」


 私は大きく深呼吸した。

 洞窟に入る前は夕暮れ時だったけど、出て来たらもうすっかり夜が更けていた。


「もう。タイガ君。洞窟の地図を持ってるなら早く言ってよ!」


 彼は用意周到にも、洞窟の地図を依頼主から貰っていた。

 この洞窟は入口と出口が別々にあったのだ。


「確実じゃないことを言って、メディアさんに期待を持たせたくなかったんです」

「え?」


 またそれ?


「スライムのせいで洞窟の構造が……」

「タイガ君!」


 私は彼に詰め寄った。

 彼の体温を感じる程。


「さっきも言ったけど、私達パーティなんだよ! 変な気を使わないで。何でも話してよ。そりゃ確かに私は勉強不足で頼りないよ。だけど……頼られたら私は頑張る性格たちなんだから!」


 目的が同じ仲間、タイガとなら頑張れる。


「……分かりました」

「よろしい」


 彼の尖った形のいい鼻を、ツンと人差し指でつついてやった。


「ところで、タイガ君は何でスライムを殺すの?」


 森の中を歩きながら会話する。


「……それは」

「私と同じ、親しい人を殺されたとか?」


 タイガはうつむいてしまった。


「あ、ごめん! 変なこと訊いて……。思い出したくないこと思い出させちゃったね」


 タイガはまだ悲しみを引きずっているんだ。

 私よりもずっと大きく、深く、重く。


「メディアさん」

「何?」

「とりあえず、今日はもう遅いからイスタル村に向かいましょう」

「え? でもギルドに戻って報告しなきゃ」


 木々の隙間から見える星空は澄んでいてとても綺麗だ。


「夜はモンスターの出現率がグッと上がります。ここからギルドがあるナガズ市まで3kmも歩いて戻るのは危険です」

「なるほど、それで近場のイスタル村の宿屋に泊まる……と」


 こんなに白く美しく光る星の夜にも、モンスターは出るんだなあ。

 何て、一瞬、私は感慨に浸ったけど……


「え!? ちょっと待って!」

「何ですか!?」

「それって、一緒に泊まるってことでしょ!?」


 タイガは無言で頷いた。


「そんな……私達、まだ知り合ったばかりだし、その……今日はスライムと戦って綺麗な下着じゃないし……」

「もちろん別々の部屋ですよ」


 あっさり。

 あたふたした私がバカみたいだ。

 君に性欲は無いのかい?

 それにしても、タイガは同い年とは思えない程、どこか達観したところがある。


「兎に角、休みましょう。魔導器もあと一回分の魔力しかない。ギルドへの報告は明日でも問題ありません。宿屋でステータス回復が先決です」


 魔導器はタイガの魔力で動くらしい。

 つまり、タイガの魔力が尽きると魔導器は動かなくなるのだ。


「はーい!」


 とりあえず、宿屋に着いたらお風呂に入ってタイガから借りた攻略本を読もう。


「あ……燃えている」

「え?」


 タイガが指差す先、そこはイスタル村。

 だが、村は燃え盛る炎に包まれていた。


つづく

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