第11話 大掃除!

 ずず……

 ずず……


 茶色のスライムが身体を這わせながら、こちらに向かってくる。


「メディアさん、あなた狙われてますよ」

「え?」

「頭が回るスライムだと、まず治癒魔法使いを狙ってくる」

「ええ!?」


 タイガ曰く、知能のあるモンスターもそうらしい。


「治癒魔法使いが治癒魔法を使うと、戦闘が長引く。攻撃しても傷が回復するから」


 なるほど。

 モンスター側にすれば確かにそうだ。

 人間側にとっても、治癒魔法を使えるモンスターがいれば先に倒しておきたい。

 チラと振り返り、タイガが言う。


「ここは任せてください!」

「はっ……はいぃ……!」


 私は彼の真剣な頼りがいのある表情に、胸の奥がドキンとなった。

 それにしても、巨大なスライムをどうやって倒すのだろう。

 いままでの小型のものとは訳が違う。

 タイガの身長はせいぜい170cmだ。(私より頭一つ大きい)

 狙いたいのはスライムの脳天だろうが、2メートルはある。

 棍棒を振り回しても届かないだろう。


「きゃっ!」


 タイガが私を突き飛ばした。

 その反動で彼は高く飛び上がった。

 私は突き飛ばされた勢いで、脇にある穴に落ちた。


「痛い!」


 尻餅をついた。

 その穴は丁度、私と同じ身長くらいの深さだった。


「何するんですか! タイガさん!」


 穴から私は顔を出した。 

 私が元居たところは大量の土砂で覆われていた。

 茶色スライムが体内から吐き出したものだ。

 あそこにいたら、私は土砂で押しつぶされていただろう。


「タイガ!」


 見上げると、タイガは茶色スライムの頭の上にいた。

 棘付き棍棒を振り回すかと思ったら、違った。

 腰に巻き付けた小袋からある物を取り出す。

 それは、よくあの小袋に入っていたなあ、と思う程大きなものだった。


「メディアさん。よーく、見といてください!」


 彼が手にしているのは、四角い車輪がついた箱に、鞭の様なものが付いた代物だった。

 鞭の先端には、長方形の箱が付いている。


「この武器は、ストローでゼリーを吸うみたいな感覚です。スライムは柔らかいから吸い寄せて消してしまうのが一番効率がいいんです。それも出来れば頭からの方がいい」


 ブオオオオオン!


超吸引スーパーダイソン発動!」


 長方形の箱から大量の風が吹き出した。

 スライムの頭頂部、つまりチョコンと飛び出た部分が長方形の箱に吸い寄せられていく。


「すっ、すごい!」


 スライムははっきりとした形を持たないブヨブヨした生き物だ。

 そのスライムが長方形に引き伸ばされ、長方形の箱に吸い寄せられる。

 本当だ。

 彼の言ったように、ストローでカップの中のゼリーが吸われて行く様に。

 鞭の様な部分がどくどくと脈打つ。

 きっと、スライムが通っているのだ。

 そして、車輪のついた箱に溜め込まれているのだろう。

 私が驚いてみている間に、スライムは跡形もなく消えていた。


つづく

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