第10話 スライムを殺してやるんだ! それが私の生きる目的になった。

 村が壊されて行く。

 突如、現れた緑の半透明の生き物が、私の日常を蹂躙する。

 村の皆が総出でその生き物を追い払おうとする。

 だけど、初めて見る生き物、否、モンスターだ。

 皆、戦い方が分からず防戦一方だった。

 何より、その数の多さに圧倒されっぱなしだ。


「パパ! ママ!」


 3階建ての建物位の大きさはあろうかという半透明なモンスターが、私の両親を飲み込んだ。

 否、飲み込んだというよりも取り込んだと言うべきか。

 だって、このモンスターには口が無いのだから。


「メディア、見るんじゃない!」


 村長である私のおじいちゃんが、私の両目をごつごつした手で覆った。

 私を含めた村のNPC達は、鉄の壁で覆われた避難所にいた。

 そこで冒険者達の戦いを避難所の小窓から見守っていた。


 嫌だ。


 勇敢な戦士だったパパと、優しい治癒魔法使いのママがこんな醜いモンスターに殺される訳が無い。


「痛い!」


 私は叔父さんの手に噛みついた。

 暗闇が解け、視界が広がった。

 

「うわああああああっ!」


 ぬちゃぬちゃ……

 モンスターの緑色の体内の中で蠢く二体の骸骨。

 あれがパパとママだなんて信じたくない。


「おい! こっちに来るぞ!」


 誰かが叫んだ。

 冒険者を一通り殺したモンスターは、手足の無い体を地に這わしながらこちらに向かってくる。

 唯一の救いは、このモンスターは素早くないということだけだった。


「地下道を通って逃げるのじゃ!」


 おじいちゃんが叫ぶ。

 地下道はモンスターが攻めて来た時のために作られた最後の逃げ道だった。

 ここを通ることで2km先の安全な海辺へと出ることが出来る。

 我先にと皆、地下道への階段へ殺到した。


「子供を、子供を先に行かせるのじゃ!」


 おじいちゃんは村長らしく皆を叱る。

 だが、誰よりも早く助かりたいと思った人々は地下道への階段を奪い合った。

 私達の掘削技術では、人が一人やっと通れるくらいの地下道しか作れなかったのだ。


「ぎゃー!」


 地下から叫び声が聴こえて来る。

 どうやら地下にもモンスターがいたらしい。

 挟み撃ちとは、見掛けによらず頭のいいモンスターの様だ。

 今度は地下から人が逆流して来た。

 そして、人々は絶望した。

 鉄壁の避難所は、パパとママを飲み込んだ緑色のモンスターによって押し潰されようとしていた。


「メディア、わしらはもう駄目じゃ」

「おじいちゃん……」

「お前には、治癒魔法使いの才能がある。生きて……ママの様な治癒魔法使いになって人々を救うのじゃ」

「でも……」

「わしらが餌になっている隙に、早く」


 そう言うと、おじいちゃんは私を抱えた。

 外に出るための出口はひしゃげていて、子供一人がやっとくらいの隙間しかない。

 おじいちゃんは、その隙間から私を通した。


「おじいちゃん……」


 涙でその後の言葉が続かなかった。

 私は振り返らず無我夢中で走った。

 どこに着くか分からないけど。


ドォーン!


 地響きと共に土埃が舞う。

 恐る恐る振り返ると、避難所は緑色のモンスターの下敷きになっていた。



 後に、あのモンスターがスライムだということが分かった。



 スライムを殺してやるんだ!

 それが私の生きる目的になった。

 だけど……

 目の前の巨大なスライムを前にして、足がすくんで一歩も動けない。


つづく

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