第9話 お姉さんの言うことを聞きなさいっ!

「この洞窟に入る前までは、僕は炎の魔法は使えなかったんです」


 タイガは私に向き直るとそう言った。


「……? どういうことですか?」

「僕はこの洞窟でスライムを倒すことによってレベル69から70になりました」

「はい……」


 だから何だというのだろう。


「70になったことで、小炎リトルファイアという魔法を習得しました」


 なるほど。


「……それで、早速使って見たんですね」


 タイガは私の応えに無言で頷いた。

 私はちょっと腹が立った。


「そういうのもっと早く教えてくださいよ! そこのことを早く知ってたら私だってタイマツの火を気にすることなく、心の余裕がもてたのに!」


 洞窟内に私の大声が響く。

 しばし沈黙。

 そして、彼が口を開く。


「僕もこのクエストでレベルが上がるとは思わなかったので……」

「え?」


 タイガは私の目をじっと見た。

 そして、こう続ける。


「だから……」

「だから?」

「確実じゃないことを言って、メディアさんに期待を持たせたくなかったんです」


 なるほど。

 期待して、期待通りにならないと失望する。

 これは彼なりの思いやりだったのか。

 彼はこう続けた。

 スライムがこの洞窟にこんなに沢山いるとは予想外だったこと。

 だから、スライムを沢山倒したことで予想より沢山経験値が入りレベルが上がったことを。


「お気遣い、ありがとございます」


 タイガは私の礼に無言で頷いた。

 無表情だけど、申し訳なさそうな雰囲気は伝わってくる。

 私は彼を慰めようと思った。


「だけど……今度からそんな水臭いの無しですよ。私達は同じ目的を持ったパーティなんですから」


 タイガの尖った小さな顎が上下する。

 やった!

 私は初めて彼をリード出来た気がした。

 この勢いでついでに訊きたいことも聞いておくか。


「タイガさんって何歳?」

「僕は……14」


 あら。


「なーんだ! 私の方が年上じゃん! 私は15よ」

「たった一歳だけじゃないですか……」


 頬を膨らます彼。

 年下だと思うと可愛らしい。


「もぅ、思春期の一歳差は人生の経験値にすると凄い差なんだからね! これからは気になることがあったらなんでも言いなさい!」


 と、お姉さん風吹かしてマウントしてみる。

 タイガはそんな私を無視して踵を返す。


「ちょっと、待ってよ! タイガ君!」



 このクエストのボス、ビッグスライム。

 複数のスライムが合体して強力になった巨大なスライムだ。

 洞窟の最下層で私達は、天井まで届きそうな半透明の生き物と対峙していた。


「あわわ……タイガ君……」

「さっきまでの勢いはどうしたんですか? お姉さん」

「だって……だって……あんなにデカい……」


 彼の背中に回り込み、私は震えていた。

 脳内に過去の光景がフラッシュバックする。


つづく

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