第8話 無駄な努力は必要な努力!?
私の言葉を無視してタイガは洞窟の奥深くへと進んで行った。
彼は黙々とスライムを叩き潰していく。
棘が沢山ついた棍棒で。
「何で剣で戦わないんですか?」
「スライムには刺突や切り裂く攻撃よりも、打撃系が有効なんです」
タイガ曰く、スライムに剣を突き立てても、柔らかい体にめり込むだけで大してダメージを与えられないらしい。
また、剣で切り裂くのもスライムには有効ではない。
例えば剣でスライムを真っ二つにすると、その切断面は棍棒で潰して散り散りになったそれよりも綺麗だ。
切断面が綺麗ということは、細胞が潰れていないため分裂した後の再生を促しやすい。
そこで、タイガは打撃系の攻撃をメインに切り替えた。
スライムを叩き潰して粉々にすれば、切断面も細胞もメチャクチャになり、千切れた後の再生も難しくなる。
「メモメモ……」
私は彼の言う言葉を一言一句逃すまいとメモを取った。
彼の棘のついた棍棒は、素材を集めて作った対スライム用の自作の武器だった。
「火で燃やしといてください」
「はい」
私はタイマツの火でマッチに火を着ける様に、千切れたスライムを、一個一個燃やして行った。
先程の様に盛大に油をかけて投げ込んだりすると、貴重な最後のタイマツが無くなってしまう。
「追いつかないですぅ」
私が弱音を上げる。
「もう少しです。頑張ってください」
スライムを叩き潰しながらタイガが言う。
彼がスライムを潰す。
私が、欠片になったスライムを燃やす。
そういう連携が出来つつあった。
「火が……タイマツの火が……消え掛かってますぅ……」
周りが闇に包まれ様としていた。
そして、火が無くなるということは……
フッ……
「ぎゃー! 暗いのやだー!」
私は絶叫した。
じゅるじゅる……
そして、スライムの欠片が蠢く音がする。
運と条件が揃った個体が再生しようとしているのか……
「ひっ……」
私の足にぬめぬめしたものがまとわりつく感触がする。
爪先から頭の先まで一気に虫唾が走る。
「タイガさぁああん! 助けてぇ!」
私は暗闇で手をばたつかせながら、この世でたった一人、頼りになる人の名を叫んだ。
「
?
何?
魔法?
彼の詠唱と共に周囲が明るく照らされる。
「うげ……」
明るくなったことで私の今の姿がよく分かった。
私の下半身は大量のスライムがまとわりついていた。
「きゃあああああああ!」
「静かにしてください。スライムは音や声に反応する」
無表情で語るタイガの手の平には炎の玉が揺らめいていた。
「じっとしててください!」
彼の投げつけた炎の玉が、私の下半身にまとわりつくスライムにぶち当たる。
スライムは私から剥がれ落ち、一気に炭になった。
「た……助かった。ありがとうございます」
私は安堵からため息が出るとともに、膝をつく。
そして、すぐあることに気付く。
「タイガさん、炎の魔法が使えるなら早く言ってくださいよ! タイマツなんか買う必要無いし、洞窟を火事にする必要も無いし、天井壊して帰り道を塞ぐ必要も無いし、タイマツの火でチマチマとスライムの欠片を消す必要も無いじゃ無いですか!」
まさに無駄な努力だ。
つづく
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